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本家に実在した曰く付きの古井戸

この記事の所要時間: 331

私の家は、いわゆる本家分家の分家にあたる血で、遡ればいいとこの武士だったらしいのですが、今となってはそんな品位はまるでない下町の八百屋というのが私の実家です。

4年前の正月、家から車で4時間程の本家に行った時の話をしようと思います。

某県の山奥にあるS家(私の苗字です)の本家は、とても広く年季の入った古めかしい家です。

正月と盆には、必ず親戚で集まり宴会をするという習慣があり、その時もその習慣に合わせて家族で本家に出向きました。

 

本家に着くなり宴会場に通され、両親と祖父母は酒や食事を楽しんでいました。

弟は、持ってきていたゲームボーイアドバンスでゲームをしています。

私まだ16歳だったので、皆が酒を飲んでいるのを横目で見ながら
『退屈だなー、そういえば本家なんて滅多に来ないし探検でもしてみようかな?』
と思い、静かに宴会場を出ました。

 

暫くうろうろしていると、どうやら裏庭に出てしまったらしく、ぽっかりと空いた草むらの真ん中に古めかしい井戸が見えました。

どう考えても、周りから隠すような位置にあった井戸……

普通に生活していれば、決して気づかないような位置にそれはありました。

『井戸なんてあったんだ』と思って近づいてみると、その井戸には硬く蓋がされていて(おそらく枯れてしまったんでしょう)柵が施されて近づく事もできませんでした。

『なんだ、残念』なんてちょっとしたオカルトを期待していた私はため息をついて、そろそろ飽きて来たので宴会場に戻りました。

 

宴会場に戻ってから、本家の叔母に井戸の話を聞くと
「その話は、T(弟の名前)にはするんじゃないよ」
と、きつく言われました。

『なぜ?』と聞くと、叔母は私を部屋の隅に呼び、話を始めたのです。

 

 

江戸時代の終わり頃に、お光という女性がS家に嫁いで来た。

お光の家は大変貧しく、お光は金で売られて来た。この結婚は政略結婚だった。

けれども、お光は精一杯主人を愛し、また主人もお光を愛した。

だがそれも長くは続かず、主人は使用人の娘…お妙と関係を持ってしまう。

あろう事かお妙は身ごもり、月満ちて男児を生んだ。

子供がいなかったお光は、お妙に辛くあたられるようになった。

お妙も主人を唆し、石女(うまづめ)に用はありませぬ、と離縁させてしまった。

そして、お光の後釜にはお妙が後妻として入り、その子はS家の跡取りとして育てられた。

お妙にとって邪魔なお光は、不義の疑いをかけられ主人に手打ちにされた。

そして、お光の亡骸はS家の墓に入れる事はせず、私が見た裏庭の井戸に投げ込んだと言うのです。

 

この手の話のお決まりというかなんというか、それ以来井戸のあたりにお光の亡霊が出るようになったと叔母は話しました。

「でもなんでそれをTに話しちゃいけないの?」
と私が聞くと

「お光の亡霊は男の魂を喰っている。だから、男衆はあの井戸の存在すら知らないんだよ。もし、あの井戸に近づいてお光の亡霊を見てしまったら最期、喰われてしまうからね」
と、お茶をすすりながら叔母は言いました。

自分を殺し、S家の跡取りとなったその息子を探しているんだよ、とも。

『なんでお妙じゃないのか』と聞けば、お妙はその後変死したとか。

『お光の呪いじゃ』なんて騒がれた、とも聞きました。

なんか胡散臭いというのが正直な感想ですが、その翌年に実話だったんだ、と思わせた事件がありました。

 

私の大叔父にあたる人(祖父の弟)が、井戸の傍で変死していたというのです。

目立った外傷もなく、50後半でまっさらの健康体。

葬式の時に本家に行き、あんな元気な人がなぁと皆が言う中で、お光の話をしてくれた叔母と話をしたのですが・・・

「あの人は、お光に魂を喰われてしまったんだよ」
と、どこか遠くを見ながら言った叔母が怖かったのを記憶しています。

それ以来、女である私も怖くて本家の井戸には近づけません。

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