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山中の川で石を飛び移るスーツ姿の男性を見て引き返した渓流釣り

この記事の所要時間: 248

仕事で付き合いのある『Mさん』から聞いた話。

Mさんは、地方へ出張によく出る。

釣りが趣味のMさんは、その先々で時間を見つけては海が近ければ磯へ、山が近ければ渓流へと釣り糸を垂らしていた。

とある日、たまたま時間が空いたMさんは、土地勘のない出張先にて、どこかいい釣りのポイントは無いかと地図を眺めていた。

ほどなくして、近くの山に目標を定めたMさんは車に乗り込み、助手席に地図を広げるとアクセルを踏み込んだ。

 

特に道に迷うことも無く、目的の山に到着したMさんは、山道を更に奥へと上っていった。

しばらく進むと山道の右側が斜面、左側が崖の様になっており、その崖下数メートルに川が流れていた。

『この辺りにしようか…。』

道路から外れ、停車すると車を降りた。

耳を澄ませば、川のせせらぎが聞こえてくる。

『どこから川まで降りようか…』

Mさんは、崖に近づいた。

少々雑草やら木々が邪魔しているものの、傾斜は緩やかであり、川まで降りるのはそれほど苦ではなさそうだった。

 

視線を木々の間に見える渓流へと移したMさんは、ある物を目にした。

少々流れの速い渓流だが、それほど深くは無いのだろう。

直径40~50センチ位の石が、所々に水面から顔を出していた。

岸から2メートル位離れているだろうか?

その石の上に、山中には不釣合いなスーツ姿の男性が立っていた。

『こんな山の中でスーツに革靴かよ…。』

男性は直立し、顔を下に向けたまま動かない。

『何してるんだ…?』

Mさんは足元に気をつけながら少し崖を下り、再び川に目をやり驚いた。

 

男性は、さっきと同じ直立した姿勢だが立っている石が違う。

先程男性が立っていた石から1メートル程離れた別の石の上に移動している。

『………。』

しばらく眺めていると、おそらくは苔等で滑りやすくなっているであろう別の石の上に、俯いたまま男が飛び移った。

しばらくすると、また別の石の上へ…。

『あぁ…やばそうだな…。』

何度か『そういうもの』に遭遇したことのあるMさんは、渓流に立つ男性がこの世の人ではないかもしれないと思った。

 

Mさんは、釣りに行く道中、地元の人を見かけると必ず声を掛けるようにしている。

近くに河川があることは調査済みなのだが、あえてこう聞くのだそうだ。

「この辺りに釣りの出来そうな所はありますか?」
と。

ほとんどの場合、近くの河川を教えてくれるか、
「川はあるけどそんなに釣れないよ」
とかそんな返答があるのだが、

中には
「この辺りにはないねぇ」
とか、

「近くにはあるけど…あそこは地元の人でも近よらならいから、よしておいたほうがいいよ」
ということを言われる事がある。

そういった返答の場合、Mさんは余計な詮索はせず、早々に引き上げるようにしているのだそうだ。

 

そういった忠告を無視して、ろくなことにあったことがない。

『今日は、この辺で誰にも会わなかったしなぁ…。』

Mさんは、石の上を飛び移る男性をしばらく見ていたのだが、諦めて帰路に着いた。

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