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蟲を怖がり奇行の数々をしてくる母が怖い

この記事の所要時間: 226

母が怖い。

異変に気付いたのは、そう思った時だった。

それまでは怖いと感じながら理解はしていなかった。

考えようとしなかった。

母は絶対的な存在だ。

媚びなければいけなかった。

私は隠すことが下手だから、その感情に気付かないふりをした。

でも、もう考えようと思った。

どのみち、私は死にかけていたのだから。

 

何故怖いのか。

考えた。

母がおかしいからだ。

私が思う「普通」とは掛け離れているからだ。

気付いてしまえば、次々と思い出される奇行の数々。

 

虫がついてくるから、と文通を禁止された。

留守録に虫の声が入れられる、と電話線が取り外された。

あらゆる場所に、殺虫剤や防虫剤があった。

当時の総理大臣は、演説しながら虫をまいているとうそぶいていた。

虫が取れない、と毎日何時間も風呂に入っていた。

お前の頭は虫だらけで汚い、とペット用のノミ取りシャンプーを使わせられた。

虫がついている、と何もついていない体を叩かれた。

何もついていないから叩いても何も取れない。

叩く手はなかなか止まらなかった。

姉と二人でオロオロと怯えて過ごしていた。

 

 

ある日、風呂場にゴキブリが出た。

排水溝からのぼってきたのだろう。

母はこんなに綺麗にしているのに虫が出るわけがないと怒り狂った。

姉がわざと持ち込んだ事になった。

それから姉は虫女と罵られ、家から閉め出される事が度々あった。

いつも私がこっそり迎え入れた。

姉と話しているのを見つかると虫がうつると怒鳴られた。

優秀な姉は私と違い、今まで何でも褒められて愛されていたのに。

やがて、姉は家を出た。

 

今度は私の番だった。

虫女と罵られ、家を閉め出される事が度々あった。

迎え入れてくれる人はいない。

どうにか家に入れても深夜にたたき起こされて罵られる事がよくあった。

内容は幼い頃から聞かされているものと同じだった。

全部お前が悪い、というものだ。

 

ある夜、たたき起こされはしなかったものの異様な気配を感じて目を覚ました。

枕もとに母が座っていた。

私の耳に顔を寄せて
「死ね…死ね…」
と囁いていた。

気付かれてはいけないと思い、寝たふりをした。

しばらくすると立ち上がり、どこかへ行ったかと思うとまた戻ってきた。

やがて、また立ち去る気配がした。

そっと覗き見ると、何か手にもってニヤニヤと笑っていた。

 

そんな事が何度もあった。
このままでは殺されると思った。

仕方なかった。

だから母さんもう私を責めないで。

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