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山神様を奉っている中つ森

山神様を奉っている森
この記事の所要時間: 207

これから話すことは、私が体験した出来事です。

もう30数年以上も前の、私が小学生だった頃のこと。

祖父の家に遊びに行った時の出来事だった。

寒くて凍てつきそうなこの季節になると、昨日の事の様に記憶が鮮明に蘇る。

 

学校が夏休みや冬休みになると、私は父親の実家でもある祖父の家に、毎年の様に長期で預けられた。

ひと夏・ひと冬を祖父と必ず過ごしていた。

あの年の冬も、祖父は相変わらず太陽の様な愛情に満ち溢れた優しい笑顔で私を迎えてくれた。

 

祖「よう来たなK(私の名前)。少し大きくなったか?」

私はたまらず祖父に抱き着き、いつもの様に風呂も寝る時も一緒に過ごした。

祖母は随分前に他界しており、祖父は一人、小さな家で暮らしている。

祖父もきっと、私が訪れるのを毎回とても楽しみにしていたに違いない。

 

祖父の家は、東北地方の山間に位置する集落にある。

私は毎年祖父の家を訪れる度に、冒険するようなワクワク感に駆られていた。

当時、私は都心の方に住んでいたので、祖父の住む土地の全てが新鮮だった。

清らかに流れる川や、雄大な山々、清々しい木々など、神々しく感じる程の素晴らしい大自然が、私は大好きだった。

特に冬になると、雪が降り、辺りは一面キラキラ光る銀世界で、都心では滅多に見れない光景だ。

 

そんな中でも、なにより私は祖父が大好きだった。

いつも穏やかで優しく、決して怒るということはしない。

その穏やかな性格と屈託のない笑顔で、祖父はたくさんの人たちから愛されており、花がパッと咲いた様に、祖父の周りはいつも笑顔が絶えなかった。

また、祖父は農業の他にマタギ(猟師)の仕事をしており、山の全てに精通していた。

大自然と共に生き、また、生き物の命を奪う、マタギという仕事をしているが故に、誰よりも命の尊さや、自然の大切さと調和を何よりも重んじている人だった。

 

 

祖父の家に滞在してはや一週間経ったそんなある日の朝、私は集落の友人AとB2人と秘密基地を作りに出かけた。

私「いってきまーす!おじい、おにぎりありがとう!」

祖「おお、気をつけるんだぞ。川に落ちないようにな。あまり遠くに行くんでねぇぞ。あ、ちょっと待てK」

 

私「なに?」

祖「ええか、K。何度も言うが“中つ森”にだけは絶対に行ったらいかんぞ。あそこはおじい達も近づけん場所だからな。わかってるか?」

 

私「うん、わかってるよ」

祖「それと・・なんだか今朝から山の様子がおかしくてな。鳥がギャーギャーうるせぇし、それでいて山の方は妙に静かなんだが、変に落ちつかねぇ。
おめぇにあんまり小うるせぇ事は言いたくねぇけど、こんな日はなるたけ山の奥には行くんでねぇぞ」

 

私「はーい」

その日はこの時期には珍しく雪が降っておらず、よく晴れた日だった。それ以外は何も変わらない、いつもの朝だ。

だがこの時、私はまだ祖父の言っていた言葉の意味がよくわからなかった。

 

ところで“中つ森”というのは、この山の中にある一部の森で、

『そこには絶対に行ってはいけない』と、祖父から常々言われている場所だった。

 

近づいてはいけない理由は、なんでも“中つ森”はこの山の神様である“山神様”を奉ってある神聖な森であるから、決して立ち入ってはならないのだとか。

もし山神様に会ってしまうと、命を吸われたりだとか、はたまた生命力を与え、一生健康に暮らせるだとか、色々な話があるようだ。

『命を奪いもすれば与えもする、この山そのものの神様』と祖父は言っていた。

もっとも、私はもともとここの人間ではないし、“中つ森”の場所がどういう場所でどこに存在するのかも、いまいちわからなかったので、祖父の言うことはよくわからなかった。

 

そして私は友人たちと合流し、山に到着したあと、秘密基地を作る場所を探した。

A「さてどこで作るか?」

B「俺達の秘密の隠れ家なんだし、もう少し奥にいこうよ」

私「大人に見つかったら隠れ家の意味ないもんね」

 

私達は更に山奥に進んだ。

30分ほど歩くと、雑木林の中に丁度良い開けた場所があり、そこに秘密基地(秘密基地と言ってもかまくらだが)を作ることにした。

そして昼も過ぎ、昼食をとりながら基地作りに没頭していた。

日が暮れかけている夕方になった頃、Aは落ち着かない様子で林の奥の方を見つめていた。

 

私「どうしたの?」

A「・・なんか、山が変な感じだ。いつもと違う」

私にはAの言ってる意味がよくわからなかった。

私の目に映るのは、別にいつもと変わらない、ありふれた山の光景だ。

ただ、確かなことは、Aの言っていることは祖父の言っていたことと重なっていた。

 

私「どういうこと?」

A「俺もようわからんけど、なんかこう・・山がゆらゆら揺らめいてる感じだ。吹いてくる風もなんか変なんだ。寒くもないし暖かくもないし・・ほら、見れ!」

Aが指さした森林の奥を、鹿が5,6頭群れをなして走り去った。

そして続くように、鳥の群れも、何かから追われるように騒ぎ立てながら私達の上を飛び去っていった。

 

B「今の時期、鹿はもっと上の奥の方にいるはずなのにどうしてだ?熊から逃げてるのかな?それだったらまずいぞ」

A「いや、この辺りは村のおじい達(マタギ)が仕切ってるから、熊は絶対近寄らんて。やっぱりなんか変だよ、もう今日は帰ろう」

B「そうだな、今日は帰った方がよさそうだ。遅いし」

まだまだ遊べたが、私達は早々に帰ることにした。

この時、なんとなく嫌な感じがしたのをまだ覚えている。

 

帰路について20分ほど歩いたが、どうも周りの様子がおかしかった。

B「なぁ、こんな所通ったか?来る時こんなでけぇ岩なかったろ」

A「うん、右行ってみるか。あっちだったかもしれん」

 

しかし右へ行っても違った。私達は完全に迷っていたのだ。

私はともかく、AとBにとってここは地元の山だ。

しょっちゅうこの辺りで遊んでいる。

二人にとっては庭の様な所で、決して迷う様な場所ではなかった。

 

 

もうどれほど歩いただろうか。時間も距離も、今どこにいるかということさえも、私達にはわからなかった。

まるで、同じ場所をグルグル回っているかの様に思える程に。途方に暮れてしまった。

私達はいつのまにか深い森に入ってしまっており、冬という日照時間が短い季節のせいなのか、森の木々が太陽を遮っているのかわからなかったが、辺りは段々暗くなっていた。

いつのまにか雪も降りだし、寒さも増し、子供心に不安が募る。

 

更にしばらく歩くと太陽は沈みかけ、村役場の17時を知らせる鐘が鳴り響いた。

私「もう17時だよ。ここどこ?」

A「わからん。でもおかしいべ、あんな浅い場所で迷うなんて」

B「こんなに遅いとオド(父親の事)に怒られるぞ。早いとこ帰ろ」

しかし私達は疲れ果て、適当な場所に腰を下ろした。

祖父の村では、子供に必ず懐中電灯を持たせる慣わしがあった為、幸いにも私達は3人とも懐中電灯を持っていた。

 

B「疲れたなぁ。さみぃし。腹も減ったな」

私「ねぇ、なんかあそこにあるよ」

私が懐中電灯を照らした先に、色の剥げた大きな鳥居があった。

 

私達は恐る恐る近づき、鳥居をくぐると、荒れ放題の石畳を歩いた先に、小さな祠(ほこら)の様な物があった。

祠の前には、米や瓶に入った水(恐らく酒)が供え物がしてある。

その両脇に、卒塔婆の様な物に漢字がたくさん記されてあった。それをどう読むのか、私達にはわからなかい。

それを見た途端、AとBはギョッとしたように顔を見合わせた。

 

A「まさか・・ここが“中つ森”っちゅう事はねぇよな?」

B「いや・・俺も“中つ森”さ行った事ねぇし、場所もよう知らんからわからんけど・・この山に神社みてぇのがあるなんて聞いた事ねぇぞ」

私「“中つ森”ってそんなにマズイ場所なの?」

 

B「そうか、おめぇはよそ者だからな。でも、こんな話はオドから聞いた事ある」

私「なに?」

 

B「簡単に言うと、“中つ森”は山神様っちゅう、山の神様が住んでる場所で、村の人間でも絶対に入っちゃならねぇって場所なんだ」

私「それは知ってるよ」

 

B「なんでもその山神様ってのが、えれぇ短気な神様で、人が“中つ森”にいるのがわかると山神様は怒って、手足を引きずってどこかに連れてっちまうんだ。これを大人達は、“神隠し”とか“祟り”って呼ぶ」

私「・・どこかって、どこに連れてかれるの?」

 

B「それはわからん。とにかく“神隠し”に遭うと、大人でも見つけられねぇんだ。大人にもわからないどこかに・・」

Bがそう言いかけた時、今まで聞いたことのないような耳をつんざく轟音が鳴り響いた。

ゴォーッゴゴゴゴ・・・・・・・・

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