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なつしるべ|川の神さん淵女子と不思議な老人

幻想的で摩訶不思議な秘境
この記事の所要時間: 1433

夏休みがやってくる。
約束された長期休暇は僕にとって、大量の宿題でさえ塵と思えるほどのとんでもない価値を持っていた。
いま考えると、そこに教育の場とは違う、未知への期待や興奮とか、自由に世界を跳びまわれる解放感なんかを見出していたのかもしれない。

世界といっても、国境を跨ぐわけではもちろんない。
あのころの僕にとっての世界とは、自分の身をとり囲む大自然に他ならなかった。

 

立ち塞がる宿題という巨大な壁に対しては無計画極まりないのに、

「初日は川だな。川で泳いで、そのあと山に入って探検」
大野「二日目はクジラ山」
「ワナを仕掛けるのに一日かかる」
大野「三日目の朝たしかめに行こう。去年みたいにはいかん、絶対勝つ」

遊びに関しては180度態度が違った。
これは夏休み初日、川に泳ぎに行ったときの話。

 

緩やかなカーブを描く坂道をひたすら上る。うだるような暑さも、これから向かう場所を想像すれば忘れられた。
すぐ後ろをついてくるのは、級友の大野。言葉は交わさず、目的地に疾走した。
耳元をかすめる風と、無数のセミがしのぎを削る喧騒で、自分の声すら呑みこまれた。

 

30分ほど上り続けると、ガードレールがほんの少しだけ途切れた場所が現れた。
その先には細い石段があって、下りたところに目的の河原がある。
自転車を担いで階段を降りながら下方に目を遣ると、絶え間なくこの地の渇きを充たしてきたものが、去年と変わらずそこにあった。

 

名も知らぬ、決して大きくはない川だ。際限なく湛えられるように思える流水も、いつかは枯れてしまうのかもしれない。
でも、知ったことか、とそっけなく流れ続けるその様に、感動を覚える。

 

川幅7mほど。複雑にうねる流水が、陽光に煌めきながらあちこちで飛沫をあげ景観に動きをもたらす。
道路と反対側には川を挟んで森があり、水面に濃い影を落としている。
地質が違うのか、流水の速さが違うのか、奥の方、すなわち森のほうに向かうにしたがって水深が増してゆく。
今回は例年と違って、上流のほうで泳いでみよう、ということになっていた。

 

河原に着くと、そこに自転車を放ってまずは雰囲気を満喫した。
湿り気のまざった涼風が沢の匂いを運んでくる。
僕ら以外に人はいなかった。あの大自然を二人占めできるのがどれほど贅沢なことか。あの頃はそんなこと思いもしなかった。

 

大野「…いくかあ。わくわくしてきた」
「絶好の飛び込みポイント、見つけような」

 

上流に向かって川を遡ってゆく。
岸辺には、岩に囲まれ流れが淀んでいるところにハヤの子供たちが群がっていた。
見慣れた光景だ。

 

いつの間にか道路側も森となっていて、川幅もどんどん狭くなっていく。
当然そこらへんに転がる岩もごつごつした巨大なものが多くなってきた。

 

「いい感じになってきたな」
大野「ああ。この辺りから先は行ったことない」

 

1時間ほど川を遡ったところで、それは姿を現した。

単調に狭くなっていた川幅が、そこだけ異様に広い。
俯瞰ではコブができたように見えるのだろう、半円を描いて対岸の森がえぐられている。
黒々とした水面を見て、相当な深さであることが瞬時にわかった。
しかもお誂えむきに、高さ6mほどの超巨大な巌がそそり立っていて、ここから飛び込んでくれと言われているようなものだった。

 

「出たな」
大野「やばい。二人だけの秘密な」
大野はそう言いつつ服を脱いで水着一枚になると、
大野「深いかどうかたしかめてくる」

と言ってざぶざぶ川に入っていった。
一方の僕も水着になり、川の水を手で掬って浴び体を慣らす。いつも僕らが泳ぐ場所より幾分冷たいようだ。

 

潜った大野の姿は消えていた。
黒々と不気味に水を湛える淵。大野を呑みこんでしまったのだろうか。
上がってこない。
もう潜ってから一分は経つというのに、上がってくる気配さえない。不吉な予感に身震いしたものの、どうすることもできない。
人気のない山奥に、子供二人。些か頼りなさすぎる。助けにいこうにも川の中では困難を極める。

ただ待つ。情けないが、それしか選択肢はなかった。

 

水面を凝視していると、さらに数十秒経ったところで細かい泡が浮いて弾けた。
はっとなり身を乗り出すと、間を置かず大野が勢いよく顔を出す。
安堵で体が重く沈んだ。心配していたことを悟られるのが恥ずかしくて、そっけない態度で向かえる。

 

「どうだった」
大野「…」
「おい…」
大野「深い。川底が見えなかった。かなり潜ったのに」
「ほんとかよ。一分以上潜ってただろ」
大野「うそ言ってるように見えるか。…こりゃすごいぞ。10mじゃ収まらない」
川から上がってきた大野とハイタッチ。僕も溢れんばかりの笑顔で上気していたと思う。

 

「まず俺から飛び込むぞ」
大野「おいおい待て…俺だろここは。深さ確かめたのも俺だし」
「…ジャンケンだ。11回勝負な」

 

結局6勝1敗で圧倒的勝利をおさめ、不機嫌な大野を尻目に急いで巌によじ登る。
ちなみに7戦中4回大野の手はチョキだったので、笑いをこらえるのに必死だった。
というのも、HUNTER×HUNTERのなかで、人はチョキを最も出しやすいことを学んだばかりだったからだ。
実証に裏付けられたものかは分からないが、少なくとも当時の僕は信じ切っていた。

 

実際に登って立ってみると、これが予想以上に高い。思わず足がすくむほどだ。
でも今さら止めるなどとは口が裂けても言えないので覚悟を決める。背筋が異様なほどぞくぞくする。

 

大野「どうした恐くなったか。はは」

大野の野次は無視して深呼吸し、黒い淵に目を遣る。
水面がゆらゆらと対流している。ほんとうに呑みこまれそうだ。いや、実際呑みこまれるのだ。
水深10m以上、未だかつて経験したことのない興奮が全身を包み込む。
あのときは意識していなかったが、大野も空気を察したらしく一言も発さなかった。

 

ひゅっと音を立て空気をとりこむと、一本の槍のように、淵にむかって空を裂き落下する。
どんどん水面が近付いてくるが、その刹那、体全体が縦に伸びるような奇妙な感覚に襲われた。
気にする間もなく水面に突き刺さり、そのままの勢いで川底に向かい猛進する。
しかしその勢いも浮力によって相殺され、次第に落下速度は緩くなり、停止する。

確かに川底が見えない。相当深い。

 

視界は開けていなかった。濁った深緑の水が辺りを包んでいる。
流されないように上流に向かって泳ぎつつ、少し辺りを泳ぎ回ることにした。今思うと、とんでもないことをしていた。

全方位を濁った水に囲まれた状況というのは、考えるより遥かに恐ろしい。
自分の体が今どこにあるのか、それを確かめる術がないからだ。

とりあえず大体の見当をつけて淵のほうへ進路をとる。
この時点で潜ってから15秒ほど。流れが速く、異常に冷たい。まるで氷水に体を浸しているようだった。

 

しばらくすると川の流れが極端に緩くなる。ここだけ流れが淀んでいるのか。どんな地形をしているのだろう。その直後、
急に視界が開けた。
完全とはいかなくとも、それに近いほど水が澄み亘った。ここで下を向けば、間違いなく川底が見えただろう。
しかしそれを許さぬ別のものを、僕の両眼は捉えていた。

 

目の前で暗い口を開ける巨大な洞窟。その壁面にはなんと、千はゆうに超えるであろう、おびただしい数のドンコが張りついているのだ。
体長15cmほどのそれはえらの部分を細かく動かしながら、平たくつぶれた顔面に乗った黒い小さな瞳を一斉に向ける。
そのほら穴の中心には、目を疑うものが。

 

女だ。

 

無数のドンコに囲まれて、女が黒紫色の顔面を覗かせている。体は見えないから、爪先を奥のほうに向けているのだろう。
極太の髪の毛がゆらゆらと扇状に拡がっていて、眼球を白濁した膜が一枚覆っているように見える。

その両眼は、まるで孵化を待つカエルの卵のようだった。

口を大きく「は」の字に開け、そこから数匹のドンコが顔を覗かせている。歯がない。

黒色の両肩が前後に動いているのをみると、水中で体をうねらせているようだ。

 

ひとしきり女と見つめ合ったあと、もう一度水中に拡がるこの異様な光景を眺めまわし、ここで初めて恐怖がこみあげてきた。

地上であったら絶叫していただろうが、水中では大量の気泡が口から溢れだすだけだった。

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