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時給プラスαで異常があったビルを見まわる警備のバイト

この記事の所要時間: 847

もう15年ほど前のことですが、変な事態に巻き込まれた話です。

私はその年の夏は、ずっとバイトをしようと決めてました。

夜は警備員のバイトをしてそのまま朝、新聞配達をして寝るという生活が続きました。

 

ある日、社員の人が

「10分ほど行った所にあるビルなんだけど、ちょっと異常があったから見回ってくれない?バイト代に色付けるから」

と言ってきたので、一緒にまわる友人(まぁ、仮に友人をAとしましょう)と二つ返事で承諾しました。

その時はさほど変には思わなかったのですが、普通、時給のバイトに+アルファでバイト代を出すなんて今考えればやっぱり変ですよね。

 

異常があったのは5階建ての雑居ビルで、見た目からしてなんか出そうな所でした。

表の鍵は掛かっていました。もちろん、裏もカギは掛かっていました。

鍵を開けて私とAは中に入りました。異常があったとされる1階は何もなし。

一応各フロアも回るように、と言われていたので、私と友人は各階ごとに一人が見まわり、もう一人が非常口が見えるエレベーターホールに待っていることに決めました。

そして5階は友人が見まわり、4階は私が……ということになりました。

 

5階は普通のオフィスで、Aが見回っている間、私は非常口のドアは?とノブを回したのですが、カギが掛かっているのか開きませんでした。

Aが「異常ないよ。こりゃもうけたな」っと笑ってホールに戻ってきました。次は4階、私が見回る番でした。

階段が使えなかったのでエレベーターで4階へ。

 

そこは倉庫として使っているのか、ホールにも段ボールが積んでありました。

さて、行くかっと思ったその時、私の携帯に会社から電話が入りました。

アンテナが1本しか立ってなく、やばいかなーと思いながら出るとすぐに切れてしまいました。

表示は圏外。

Aはここで待って、私は外に出て電話をかけ直すと言うことになり、何の気なしに非常口のノブをひねると開きました。

 

5階で非常階段を見回ってなかったので、私は階段で行くことにしました。

5階は異常なし。4階に戻るとAが「慎重すぎる」と笑いました。

3階、ここも非常口のドアは鍵が掛かっているらしく開きませんでした。

2階も同様に鍵が掛かっていて開きませんでした。

1階に着いたとき携帯がまた鳴り、表示を見ると会社から。アンテナは3本立っていました。

 

「あれ?」っと思い出ると、社員の人がAの事をしきりに聞くので、

「普通ですよ。どうしたんですか?」

と聞くと、さっきから何度もAの携帯番号で会社に何回も電話がかかって来ているらしく、しかも出ると必ずザーっと言うノイズ音しか聞こえないので、何かあったのか?と言うのです。

 

「いや、何もないです。Aの携帯の故障じゃないんですか?」

っと笑いながら言うと、

「なにも無いならいいんだ」

と言って電話が切れました。

 

階段で4階まで行くのは疲れるのでエレベーターで行こうと上ボタンを押したのですが、一向にエレベーターは4階から動きませんでした。

私はAが悪戯してるのだと思い、仕方なく階段で4階まで戻りました。

 

Aはエレベーターホールにはいませんでした。エレベーターを見ると1階に。

Aが私を驚かそうとしてどこかに隠れているのかな?と思い、一応4階を見回ったのですが、何処にもいませんでした。

先に3階を見に行ったのかな?っとエレベーターを呼び、乗り込むとAの携帯がエレベーターの中に落ちていました。

Aの奴帰ったのか?と思い、私一人で残り3フロアを見回りました。

終わったー疲れたーもう帰ろう・・このとき重要な事を思いだし脱力しました。

 

この場所には会社の車で来たのですが、運転はAがしてきたのです。

私に至ってはバイクなら運転できるのですが、車は運転出来ない。

これじゃあ帰れないじゃないかーっと思い外に出ると、案の定会社の車はそこにありませんでした。

仕方なく私は歩いて会社へ戻りました。

 

その日、Aは私を置いて会社へ帰り、そのまま仕事を辞めてしまったそうです。

会社の人は私にもう帰っていいよと言いました。

何か釈然としないものを感じましたが、臨時収入をその場で渡されたので「まぁいいか」と結局そんなふうに思ってしまいました。

制服を仕舞うときポケットの中にAの携帯が……返すの忘れてたのを思い出しました。

忘れてたというのか、会えなかったってのがホントの所なんですが……。

Aは自宅に電話を引いてないので、携帯がなきゃ大変かな?なんて思い、文句ついでに届けてやろうと新聞配達後Aの自宅へ行きました。

 

Aの家はかなりボロいアパートの二階の階段前。

寝てるけどいいよねっとチャイムを押しましたが、出てくる気配なし。

何回も押すと近所迷惑だろうなぁーと思ったので、夕方にでも来てみようと私は家に帰って寝ました。

 

私は電子音で叩き起こされました。

時計を見ると7:30。鳴っているのはAの携帯でした。

仕方なく私が出ると、電話相手はAの母親でした。

 

またAのアパートに行きました。チャイムを押すとすぐにAの母親が出てきました。

ドアの隙間からAの部屋の中がチラッと見えたのですが、変な柄の壁紙が張ってありました。

私は携帯を渡してそのまま帰るつもりだったのですが、誰かが階段を登ってくる音が聞こえると、Aの母親は「ここじゃなんだから」っと私を部屋に入れドアを閉めたのです。

中に入った時、私の顔は真っ青だったと思います。

 

それは、その変な柄の壁紙……は、壁紙だったのではなく、指から血が出ても壁紙をかきむしり続けた……そんな痕だったからです。

それが、壁一面にあったのです。

Aの母親は「ペンキでも塗らないとダメね」と雑巾でこすりながら苦笑しました。

 

Aの母親の話では、Aはあの仕事中に人を殺してしまったとAの母親に電話を入れたそうですが、途中で叫び声と共に電話が切れてしまったそうです。

その後、何度電話しても話し中で、父親と話し合って彼の母親が始発電車でAの所へ来たそうです。

そして、管理人さんに電話を借りてAの携帯へ電話したそうなのです。それを、僕がとったというわけです。

あいにくAの部屋の両隣は留守で、中で何があったかは分からないのだと言っていました。

 

そして先日。Aから電話があり、会うことになりました。

Aはまるで別人の様な顔つきになっていて、はっきり言って喋るまで本当にAなのか?とさえ疑うほどでした。

実はAから電話があった後、彼の母親から電話があり、

「Aがあなたに何を言っても、すべて『Aが疲れていたせいだ。只の幻覚』だと言ってくれ」

と言われていました。

 

その言葉に、Aは普通では考えられないような事を言うのだろうと、覚悟は決めていました。

彼が語った話とは……

 

 

あの日、私がAと4階で話し、階段で下に向かっているときエレベーターが1階に降りていったそうです。

Aは、私がダッシュで階段を下り、自分を驚かせる為にエレベーターで上に上がって来るのだと思い、逆に驚かせてやるつもりになったそうです。

そして、エレベーターの前で扉を背にして立っていました。

 

エレベーターが開く音、誰かがゆっくりAに近づく感じ……しかし、そのとき非常口のドアが開く音がしたんだそうです。

Aはあれ?っと思い振り返りましたが、その目には非常口が閉まったところしか見えなかったそうです。

まさか泥棒!?と思ったAは、急いで非常口のドアを開けたそうです。すると、扉が何かに当たったそうです。

 

懐中電灯で見ると、そこには髪の長い女が倒れていて、しかもその女の体はうつぶせであるにもかかわらず、頭はほぼ上を向いていたそうです。

Aは怖くなってエレベーターに駆け込むと、その中から、母親に電話をしたそうです。

「人を殺した」と。その時、スーっとエレベーターのドアが開いたそうです。

 

そこには頭がいやな方向に曲がった女が、這いつくばりながらいたそうです。

エレベーターのドアは閉まる……が、女の腕に邪魔をされてまた戻る。そんなことが何回か続いたそうです。

そして女は立ち上がり、曲がった頭をAの方へ向け、

「憶えたからね」

と言ったそうです。

 

Aは女を突き飛ばしたそうです。

そして(私が1階でボタンを押していたので)エレベーターは1階に。

Aは無我夢中で会社へ逃げたそうです。

いきなり会社を辞め、バイクで急いで家に帰ったそうですが、部屋にいても女がやってくるのでは?と言う考えが頭を離れず、部屋から逃げ出したそうです……鍵もかけずに。

 

Aが後になって下の住人から「朝までガタガタ何やってたの?」と言われたときは、あの女が来たのだと思ったそうです。

その話を聞いて私は嫌な汗が出ました。

下の住人の話からすれば、私がAの部屋に行ったときもAの部屋にはソレがいたってことですよ?

玄関には鍵が掛かっていなかったんです。これがサスペンスドラマなら、私は必ずドアを開けてますよ!

もしも、本当にそうしていたら、私はソレを見てしまったのかもしれないんです!!

 

……Aは今はそのアパートを出て違う所に引っ越したそうです。

臨時収入をつけてくれると言った会社が、このことを知っていたかどうか……それはわかりません。

私の結論――

  • エレベーターは必ず前を向いて待ちましょう。
  • ドアはゆっくり開けましょう。
  • 人の家のドアはどんな時でも開けようとしない。

けれど……ソレが人間でなかったとすれば(そうとしか考えられませんが)、結局は何をしても無駄なのかもしれません。

そこの扉を開けたとき、ソレに当たらない保証が、あなたにはありますか?

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