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ふだらく様を恐れた海辺の地域に伝わる忌み日の風習

この記事の所要時間: 259

自分は子どもの頃から大学に入るまでずっと浜で育ったんだけど、海辺ならではの不思議な話がいろいろあった。

自分の家はその界隈で一件だけ漁師ではなく、親父は市役所の勤め人だった。

砂浜があって、国道があり、その後ろはすぐ山になっていて、その山の斜面にぽつんぽつんと家が建っていて、浜に漁のための小屋があるようなところ。

 

自分が小学校頃までは、8月の最初の週、7日の日までは漁師は漁に出ちゃいけないことになっていて、特に7日の晩から朝までは、子どもは家の外へも出ちゃいけないことになってた。

何でも、沖に『ふだらく様』の舟が来て、外に出ている子どもは引かれてしまうらしい。

こういうのは神隠しとか、普通は女の子が危ないんじゃないかと思うけど、特に本家筋の跡取りの男の子なんかが危ない、という話だった。

 

大人達は集落の公民館に集まって朝まで酒飲むし、漁師だから喧嘩もする。

夏休み中の子どもは家でおはぎを食べて早く寝る、という日なんだ。

ただそんな日でも、国道は少ないながらもときたまは車が通ってるわけだし、世の中が合理的になったのか、自分が中学校になる頃には行われなくなった。

 

それでもやっぱり、8月7日前後は海で遊んじゃいけないとは言われてたんだけど、中学校2年の8月6日の日の朝に浜に出て、水死体を発見した。

岩場になってるところを歩いていて、外国のブイなんかの漂着物を探していたら、海中2mくらいのとこに人のお尻が見える。あわてて大人を呼んだ。

 

引き上げられたのは近くに帰省してた大学生だった。

波で海パンが脱げて、頭を下にして沈んでた。

その前日の午後には亡くなってたのだろうと、来た警察の人が言っていた。

自分がまだ当時健在だった爺ちゃんに、『ふだらく様』と水死した人は何か関係があるのか聞くと、「関係あるかもしれないね、ふだらく様は男が好きだから」という話。

 

その出来事で、自分は子どもながらもすごくショックを受けたんだけど、次の日が8月7日で本来の忌み日。

ちょうどテレビで怪談特集とかやってて、自分は見ないで早く寝た。

けど早く寝すぎて、夜中の2時過ぎ頃トイレに起きてしまった。

その頃は実家も改築する前で、家の外にボットントイレがある状態。

 

トイレは山側なので浜を見ることはないけど、まだ暗い夏の闇の中を裏戸から出て歩いていると、沖の方からドン・ドンと太鼓を叩くような音がかすかに聞こえてくる。

自分はその時、これはふだらく様だから見にいっちゃいけない、と思った。

思ったけど、自分は馬鹿だから見に行ってしまったんだよ。

 

そしたら、国道をはさんで沖の方に、板屋根のついた昔の小さな舟が浮かんでいる。距離感がよくわからない。

本来沖は真っ暗で見えるはずがないんだけど、赤い光がその舟を包んだようになってて見えるんだな。

沖は波が荒いのか舟は上下に浮き沈みしてて、よく見ると舟には何本か鳥居がついている。

太鼓の音も小さく聞こえていて、自分を呼んでいるような気がする。

 

しばらく見てるうちにぼうっとしてきて、浜の方に歩き出そうとした。

そのとき、国道を大きな音をたてて大型トラックが通って、目が覚めたようになった。

もう一度見たら沖の舟は消えていた。

 

まあそれだけの話。怖くなくてすまん。

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