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死界の扉を開けるお祈りのような儀式

扉の向こう側にいる者
この記事の所要時間: 713

「死界の扉を開けるお祈り」をご存知だろうか。

夜中の2時にテーブルに鏡を立てて置く。その左右にろうそくを1本ずつ、火を灯す。

杯を二つ用意、鏡の左には水、右には酒。

鏡の前には自宅の西から拾った小石を2個、東から拾った小石を2個置く。

 

そして、自分の顔が鏡の中心に映るように座る。

両手を胸の前に組み、目を閉じ以下のセットを14回唱える。

呼び出したい亡くなった人の名前・その人が亡くなった年月日・自分の名前・今お祈りをしている住所(自宅)。

 

そうして目をあけると、鏡にその亡くなった人が現われるという。

呼び出したい人は、本人と縁(ゆかり)がなければダメらしい。

このお祈りと言うか儀式みたいなものは学生時代、仲のいい友人から教えてもらった。

 

その友人に

「おまえ、やったことあるの?」と聞くと

「いや、ないよ。だって怖くないか?いくら会いたい人でも夜中に鏡の中に死人が出てきたら怖すぎだろ?」と返ってきた。

 

確かに、死んだばーちゃんや叔父さんに会いたい気持ちもあるが、本当に出てきたら不気味すぎる。

俺もこのお祈りたるもの実際にやることはなかった。

 

 

それから数年後、俺はある会社の商品開発の部署で忙しい日々を送っていた。

俺の入社以来の最大のプロジェクトを進行させていたときのこと。

提携先の担当者と慰労を兼ねて二人で飲みに行くことになった。

 

その担当者(Aさん)は俺より2才上のほぼ同世代。

毎日、電話やミーティングをしていたが、こうして外で会うのは初めてなのでとても楽しみだった。

1件目の居酒屋では仕事の話ばかりだったが、2件目のバーでは酒も結構入り、次第に打ち解けた。

趣味の話しやプライベートの話に展開していった。

 

「ところでAさん、結婚の予定はないんですか?」

「ん?・・・ないよ、彼女もいないしさ(笑)」

「えー本当ですか?もてるでしょ?一人にとどまらず遊びまくるって感じなんすか?」

 

俺はお世辞も込めてそう言うと、Aさんはしばらくの沈黙のあと神妙な顔で

「実はもの凄く好きな女がいたんだけどさ」

「ふん ふん」

 

「3年前に死んじゃったんだよね」

「えー!事故かご病気でですか?」

 

「・・・いや、自殺だよ。」

「・・・」

 

「それ以来、彼女つくる気もしなくてね。」

「すみません。変なこと聞いちゃいまして。」

 

「いや、いいんだよ。いつもでも引きずってちゃいけないとは自分でも思ってるんだけどね」

俺はカウンターの並びの席で、正面を見据えるAさんの横顔を見つめながら、あのお祈りのことが数年ぶりに記憶に蘇った。

 

「Aさん、その彼女に会いたいですか。」

「は?そりゃあ会えるんだったら今でも会いたいさ・・・何?会わせてくれるの?恐山のいたこか何かか?」

Aさんは怒りの混じったような顔で俺のほうを向いた。

 

「いや、これ大学のとき友達から聞いた話なんですけど・・・」

俺はAさんに死者と会えるというお祈りの方法を冗談ぽく教えた。

Aさんは、その話を聞いて笑いとばすものだろうと思っていた俺は、メモをとりはじめたAさんを見て少し寒気がした。

 

 

明けて月曜の朝。

普段どおり定時ぎりぎりに出社した俺を上司達が取り囲んだ。

そして物凄い剣幕で俺に聞いてきた。

「おまえAさんと金曜の夜、飲みに行ったんだよな」

 

「そ、そうですけど、何か?」

「Aさん、死んだよ」

何?

 

「・・・は?マジですか?」

俺は声を振り絞って聞き返した。

 

「ああ、朝一で○○さん(Aさんの上司)から電話があってさ、自宅で首つって死んだんだと」

「いつですか?」

 

「土曜の明け方ということらしい。昨日の昼くらいに発見されたらしいが・・・。ところでおまえ金曜は何時にAさんと別れたんだ?」

「・・・いや・・・終電前にお開きにしたんで12時前くらいかと・・・」

 

「まぁいい。今から△△社(Aさんの会社)におまえは呼び出されている。俺も付いて行く。
警察が来ておまえに金曜の夜の状況について聞くらしいわ・・・
いや、心配するな、状況からして警察も自殺と断定しているらしい。その原因が何かわかればということじゃないのか?」

 

俺は呆然とする中、タクシーで上司と赤坂にあるAさんの会社に向かった。

待ち受けていたAさんの上司に俺たちは迎えられ応接室に通された。

そこには、私服の刑事二人と制服姿の警察が二人。

 

丁寧な口調でAさんの金曜の様子や、仕事でつきあってきたこれまでのAさんの言動について、いろいろ聞かれた。

俺はありのまま答えた。大好きだった彼女が自殺したことも話しをした。

 

でも、俺には言えないことがあった。その彼女に会う方法をAさんに教えたことは。

例のお祈りが、何らかしらAさんの自殺に影響したことは間違いない。俺はそう悟った。

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