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最終退室者になる事の怖さをトイレで知った残業の休憩

 2016.06.05     恐怖体験談     コメントを書く     Loadingお気に入りに追加
最終退室者になる事の怖さをトイレで知った残業の休憩
この記事の所要時間: 727

 以前働いていた東京の会社で体験した話…。

この会社は8階建ての建物の6階部分を、ワンフロアー間借りしてオフィスにしていた。

それぞれの階は100人以上が収容できる中規模クラスの建物だ。

この建物のその他の階には、それぞれ別の会社が入っていたのだが、収容人数に対してトイレの個室の数が極端に少ないため、非常階段を昇り降りして他の階のトイレを利用させてもらう事がよくあった。

 

 この建物は夜、各フロアーの最終退出者が施錠すると自動的にセキュリティーが設定され、最終退出の後は2~3分後に空調および照明がすべて落とされてしまう。

エレベーターもその階を素通りし、非常階段の鉄扉も内側からのみ開くようになるので、警備員を除いて、階段側から共用廊下へ侵入することができなくなるのだ。

当時、私の部署は納期直前の時期に差し掛かっていたため残業がひどく、早朝から深夜まで仕事に縛りつけられていたので、唯一の憩いの場がトイレの個室になっていた。

 

 夜10時ころになり、一呼吸入れるためトイレで休憩することにした。

同僚から見とがめられるのを避けるため、わざわざエレベーターに乗り、8階のトイレの個室に入ってしばし携帯電話でニュースを読む。

この8階は、我々の会社と同じくIT関係の会社が1店舗入っていたと思う。

ほどなくして、その階の最終退出者が施錠し、「ピッ、ピッ、ピッ」という一定リズムの電子音が遠くで鳴り始めた。自動セキュリティー開始の合図である。

それを意識の外でぼんやり聞きながら構わず携帯を弄っていると、2~3分後にすべての照明が落とされた。

 

 ふいに目の前が完全な闇に包まれる。それまで静かに聞こえていた空調の音も消え、見えるのは自分の携帯電話から発せられるバックライトの光だけだ。

このような状況にはこれまで何度か遭遇していたので、のんびり慌てずにキリの良いところまで携帯電話を操作して、いよいよ個室の扉を開けて外へ出ようとしたときだった。

不意に人の声が聞こえてきたのだ。

 

 その声はぼんやりとしていて話す内容まではよく聞き取れなかった。

しかし聞き耳を立てていると、徐々にこちらへ近づいてくるようだ。最終退出の後、警備員が確認に来たのだろうか?

既に消灯されてから5分以上が経過していたので、このフロアとは何も関わりのない私がこの場にいるのは極めて具合が悪い。

とりあえず相手をやり過ごしてからこっそり出ようと、ドキドキしながら聞き耳を立て続ける。

 

 居室以外の共用部分はどの階も造りが同じになっていて、見るからに安物の実用一辺倒なみすぼらしいカーペットが敷かれている。

そこからトイレに踏み込むと耐水性を優先したリノリウムの床になる。

カーペットを歩けば軽い衣擦れのような音がするのだが、履物によってはあまり音が聞こえない場合もある。

それに対してトイレに入ればいかなる履物でもすぐにゴムが擦れるような「キュッ、キュッ」という特徴的な音を立てるため、仮に忍び足で歩いたとしても少なからず、摩擦音が聞こえるはずだ。

 

 声がいよいよ近づいてくる。しかし相変わらず内容はハッキリとしない。

それどころかとても陰鬱なボソボソした独り言のような声なのだ。そもそも警備員が二人で歩いてきたとすれば、そんなに小さな声で話すだろうか?

なおも、声が近づいてくる。心臓が徐々に激しく鼓動を打ち始める。

 

 その声はトイレの入り口の辺りに差し掛かったようだ。しかし、何も足音は聞こえない。

声からすると移動はスムーズに淀みなく続いている。しかし、衣擦れや足音が一切聞こえないのだ。

「どうし…、こ…な……に…、ど…し…、こんな………。」

不気味な声が近づいてくる。僅かずつではあるが、聞き取れる部分が増えてきた。

だが、相変わらずボソボソとした声で、途切れ途切れにしか聞こえない。

その声がトイレの入り口の辺りで一旦足を止めたようだ。

 

 本当に警備員だろうか?なぜなら足元の隙間から懐中電灯の明かりなどが一切漏れてこないのだ。

数秒間その場にとどまった後、再び声が聞こえ始めた。どうやらさらに近づいてくるようだ。

「どうして、こんな……に…、どうして、こんなこ…に…。」

相変わらず足音は聞こえない。だが、どうやら自問自答するような言葉を繰り返しているようだ。

 

 俺は入り口から最も遠い個室に入っていたのだが、既に声の感じからすると入り口のすぐ横の洗面所の辺りまで近付いているようだ。

そしてこれまで聞き取れなかった陰鬱な声がハッキリと聞き取れ始めた。

「どうして、こんなことに…。どうして…。こんなはずではなかったのに…。」

その声を聞きながら全身の鳥肌が一斉に逆立つのを感じた。何かを後悔しているようだ。

しかし、その声が地獄の底から聞こえるような、非現実的な響きを伴っている。

 

 全身から嫌な脂汗が流れ始める。鳥肌が一向に収まる気配もない。

声の陰鬱さもそうだが、どうして足音がしないのだろう?

そして、なぜこれ程の完全な暗闇の中を、独り言を呟きながらトイレに入ってくるのだろう?

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