「動物霊」短編怪談

短編怪談
7 :名無し百物語:2014/08/01(金) 08:24:52.73 ID:UmwEyZhj.net[1/2]
「動物霊」
俺生まれつき霊感があるっぽいのね。普通の人が見えないものが見える。
物心ついたときにはすでに見えていたから、自分が普通じゃないってことに自覚がなかった。だから小さいころは言動がおかしくてよくいじめられた。
いじめられまくってたからか、大人になっても根暗な性格のままで友達なんてリアルは皆無、ネット上にしか存在しない。彼女なんてできる気配すらない。
霊が見えるなんていうラノベの主人公みたいな力が備わっているのに、花々しいエピソードなんかひとつもない。リアルってのは厳しいよ。
霊が見えるっていっても、すごく限定的な範囲だけだ。なぜか俺は動物の霊だけが見える。
人間の霊はまったく見えない。動物の霊だけ見えたって霊能力者になれないだろう。
だって悪霊とかって全部人の幽霊でしょ。守護霊なんかをみてアドバイスしたりもできない。
それに体調の良し悪しで見えたり見えなかったりするから不安定すぎて頼りにできない。
ずっと霊が見える力なんてなければよかったと後悔して過ごしてた。だけどある日、職場に新人がやってきたとき初めて力がプラスに働いた。
その日、俺は風邪をこじらせていて朦朧とした意識のまま仕事をしていた。
休みたくてもこなさなきゃいけない仕事が山積していたから、カフェインの力を借りようと給湯室にフラついた足取りで向かった。
給湯室に入ると見知らぬ女性の先客がいた。髪型は黒のロングで顔立ちははっきりしており、長身でモデルのような体型の、ひとことでいうならタイプの女性だった。
女性は給湯室に入ってきた俺に気づくと、満面の笑顔を浮かべて話しかけてきた。
「今日からここで働かせてもらうことになりました木下ですよろしくおねがいします」
「お、あ・・・よろ・・しくおねが・・いします・・・ゴホゴホ」
どっちが新人だよとつっこまれそうなほど、挙動不審な態度をとってしまった。しかし木下さんは気にせず話を続けてくれる。
結局仕事そっちのけで15分ほど雑談したんだが、たったの15分で俺は恋に落ちていた。
俺みたいなやつを奇異の目でみることもなく、優しく楽しく話してくれる。見た目も抜群にかわいいし、風邪のせいで鼻がつまっているのにかぎとれるいい香り。
恋したい。木下さんと恋愛できたら、もう死んでもいい。
ちらりと時計をみるとそろそろもどらないとヤバイ時間になっていた。
このままもどるのもいいが、せめてひとつだけでも、次に木下さんと会話をはじめるきっかけを入手しておきたい。なにか共通の話題とか。
くそ、女性が好みそうな話題なんてこれっぽっちも持ち合わせてない。こんなチャンスがくるなんて思ったこともなかったから!
内心あせりぎみだったが、木下さんが突然ペットの話を始めた。
なんでも木下さんは最近爬虫類を飼おうと考えているらしい。それで色々調べているのだが、犬や猫と違って情報を集めるのに苦労しているとか。
そこで俺はハッとなった。一度木下さんと別れて足早に給湯室を出て、同僚の田中を探した。
田中は自分のデスクにいた。正直いって田中とはほとんど口をきいたことがない。だが、俺には田中が爬虫類にめっぽう詳しいことがわかっていた。
なぜなら動物の霊がみえる能力があるからだ。前から田中の肩や頭にはカメレオンや亀、妙な形のトカゲなどが乗っていた。田中にきけば爬虫類のことでわからないことはないだろう。
俺はビクビクしながらも田中に話しかけ、昼飯を一緒に食わないかと誘った。もちろん俺のオゴリだ。
誘った店が近所で有名な高級ステーキ店だったこともあり、あっさり了承を得て、二人で昼食を楽しんだ。
その際、俺はひたすら爬虫類の飼育や生態に関する情報を収集した。予想どおり田中は爬虫類の飼育が趣味で、ネットや図鑑に載ってないようなこと、実際に飼育し愛好しなければわからないような情報をこと細かく教えてくれた。
田中の情報をもとに木下さんと会話したら、一気に親密になれたのだから、本当なら木下さんと深い関係になれたのは田中だったのかもしれない。
しかし、俺に備わった能力のおかげで、その役目は俺が担うことになったのだ。
ようやく霊をみる力が俺に幸せをもたらしてくれた。嬉しくて神に感謝したよ。何度も。
8 :名無し百物語:2014/08/01(金) 09:21:51.51 ID:UmwEyZhj.net[2/2]
木下さんが会社にきてから二日目、俺の頭は依然として熱でぼ~っとしていた。
風邪の熱もあったが、木下さんに対する想いが発する熱もあった。
昨日俺が爬虫類に詳しいと知った木下さんは、積極的にどんどん話しかけてきた。
俺と木下さんは一日中暇があれば爬虫類の飼育について話していた。
そのせいか、木下さんは予定をはやめて今夜仕事の帰りに爬虫類を買うと宣言。
飼育ケースや餌なんかも買うから一人だと辛いらしく、物怖じしつつよければ手伝ってくれないかと俺に頼んできた。俺はこころよく了承した。むしろそれを待っていた。
飛び上がらんばかりの気分の高揚を必死でおさえながら夕方になるのを待ち望んだ。
そして夕方、俺と木下さんはウキウキ気分で田中御用達の店に直行。
ついでにスーパーで晩飯の材料を購入し木下さんの家へ。
木下さんのアパートについたとき、俺の心臓は爆発寸前だった。初めて一人暮らしの女性の家へ足を踏み入れる。しかも夜だ。
木下さんの手料理が食べられる。もしかしたらその先もあるかもしれない。妄想がどんどんふくらんでいく。
きっと俺の人生で一番幸せな瞬間だった。
部屋にあがるとすぐさま飼育ケースを配置し、購入したトゲトゲのトカゲを中にいれた。
俺がペットの世話をしている間に、木下さんがキッチンで料理を作った。
女の子らしい丸くて可愛らしいテーブルで木下さんの手料理を食べながら飼ってきたトカゲの話題で盛り上がった。
食事の際酒を飲んだんだが、風邪を引いていて酔いがまわるのが早く、俺は木下さんの家で眠ってしまった。
深夜に目覚めると、カーペットに寝転がっている俺の体に毛布がかけられていた。木下さん優しいなぁと、思わず笑顔になってしまう。
木下さんのことを考えると、なんだか木下さんの甘くかぐわしい香りがするような・・・それは妄想ではなかった。
ふと横を見ると、なんとそこには木下さんが寝ているではないか。俺に寄り添うように。
可愛らしい寝息がスゥースゥーときこえてくる。
興奮のあまり視点が定まらない。最高だ、最高すぎる。女の子と一緒に寝ている。
今日はとくになにもないだろうが、この先木下さんと今日みたいな夜を過ごしていけば、いずれはテレビや雑誌でしかみたことのない素晴らしい行為の数々を・・・・やっと春がきた!
数百数千という妄想をめぐらせながら、いつのまにか俺は再び眠っていた。
「○○さん、朝だよ。起きて。仕事まにあわなくなるよ」
木下さんの優しい声。人生でもっとも爽快な寝起きだった。今日から俺の人生は輝きだす。
ゆっくりと起き上がりキッチンにいる木下さんのもとへ向かう。すでにスーツに身を包んだ木下さんの後姿が目に入る。やっぱり美しい。
「朝ごはんもうすぐできるから待っててね」
まるで新妻のようなセリフ。生きているうちにきけるとは思わなかったセリフに嬉しくて狂いそうになるはずだった。しかし、そうはならなかった。俺に見えているあるもののおかげで。
木下さんの後姿のまわりに、うごめく何かが見えた。ひとつだけじゃない。多数、いや無数にいる。
よく見るとそれらは、小汚い犬や猫だった。その犬や猫の体はどこかに傷があり、内臓が飛び出ていたり、骨や肉がむきだしになっている。
傷口はどれも鋭利な刃物で切られたようにパックリ開いている。どうやら人に傷つけられたもののようだ。一体だれに?
答えは出ていた。木下さんだ。彼女が動物たちを傷つけ殺したのだ。何匹も、何匹も。
昨日は風邪を引いていた。だからわからなかった。俺の霊が見える能力は体調に左右されてみえたりみえなかったりするからだ。今日は体調が万全だから見えてしまったのだ。
木下さんが動物虐待をしているなんて。彼女は本性を隠していたのか。本当は残酷な性格をしていて、いつかそれを俺にも見せてくるのだろうか。
苦悶の表情でじっと見つめてくる何匹もの犬猫の視線に耐えながら、俺は朝食をとった。
木下さんの家で過ごした日から一ヶ月ほど経ったとき、会社で木下さんを見かけた。彼女は相変わらず綺麗だった。同僚と楽しそうに会話している。
俺はあの日から少しずつ木下さんと距離をとりだした。彼女に気づかれないように。今では、すれ違ったときに軽く頭をさげるだけの関係になってしまったが後悔はしていない。
なぜなら、同僚と会話している木下さんの肩に、俺と一緒に購入したトカゲが無残な姿で乗っていたからだ。
そして、足元にはここ最近無断欠勤で会社を休んでいる田中の姿があった。俺はもう、人を信用できない。
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いずれはテレビや雑誌でしか見たことのない素晴らしい行為の数々を…!
爆笑した!
田中が見えたってことは、田中も動物霊だった?!
期せずして霊力upですか
通報しれ。
創作怪談でしょ、これ
人間は動物ではないとでも?
分かりやすい言い方で分けてんだろが
人間様最高っす
創作臭い。