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トラブル続きで荒れた雰囲気だった職場の非常階段

 2016.08.28     都市伝説・ネタ     3件     Loadingお気に入りに追加
非常階段
この記事の所要時間: 959

 十数年前、職場で体験した出来事です。そのころ、ぼくの職場はトラブルつづきで、大変に荒れた雰囲気でした。普通では考えられない発注ミスや、工場での人身事故があいつぎ、クレーム処理に追われていました。

朝出社して、夜中に退社するまで、電話に向かって頭を下げつづける日々です。当然、ぼくだけでなく、他の同僚のストレスも溜まりまくっていました。

 

 その日も、事務所のカギを閉めて、廊下に出たときには午前三時を回っていました。O所長とN係長、二人の同僚とぼくをあわせて五人です。みな疲労で青ざめた顔をして、黙りこくっていました。

ところが、その日は、さらに気を滅入らせるような出来事が待っていました。廊下のエレベーターのボタンをいくら押しても、エレベーターが上がってこないのです。

なんでも、その夜だけエレベーターのメンテナンスのために、通電が止められたらしく、ビル管理会社の手違いで、その通知がうちの事務所にだけ来ていなかったのでした。

これには、ぼくも含めて、全員が切れました。ドアを叩く、蹴る、怒鳴り声をあげる。まったく大人らしからぬ狼藉のあとで、みんなさらに疲弊してしまい、同僚のSなど、床に座りこむ始末でした。

「しょうがない、非常階段から、おりよう」

O所長が、やがて意を決したように口を開きました。

 

 うちのビルは、基本的にエレベーター以外の移動手段がありません。防災の目的でつくられた外付けの非常階段があるにはあるのですが、浮浪者が侵入するのを防ぐため、内部から厳重にカギがかけられ、滅多なことでは開けられることはありません。

ぼくもそのとき、はじめて階段につづく扉を開けることになったのです。

廊下のつきあたり、蛍光灯の明かりも届かない、薄暗さの極まったあたりに、その扉はありました。非常口を表す緑の明かりが、ぼうっと輝いています。

オフィス街で働いたことのある方ならおわかりだと思いますが、どんなに雑居ビルが密集して立っているような場所でも、表路地からは見えない、「死角」のような空間があるものです。

ビルの壁と壁に囲まれた谷間のようなその場所は、昼間でも薄暗く、街灯の明かりも届かず、鳩と鴉のねどこになっていました。

うちの事務所は、ビルの7Fにあります。

気乗りしない気分で、ぼくがまず、扉を開きました。

 

 重い扉が開いたとたん、なんともいえない異臭が鼻をつき、ぼくは思わず咳き込みました。階段の手すりや、スチールの踊り場が、まるで溶けた蝋のようなもので覆われていました。そしてそこから凄まじくイヤな匂いが立ち上っているのです。

「鳩の糞だよ、これ……」

N女史が泣きそうな声でいいました。ビルの裏側は、鳩の糞で覆い尽くされていました。まともに鼻で呼吸をしていると、肺がつぶされそうです。

もはや、暗闇への恐怖も後回しで、ぼくはスチールの階段を降り始めました。すぐ数メートル向こうには隣のビルの壁がある、まさに「谷間」のような場所です。

足元が暗いのももちろんですが、手すりが腰のあたりまでの高さしかなく、ものすごく危ない。足を踏み外したら、落ちるならまだしも、壁にはさまって、宙吊りになるかもしれない……。

 

 振り返って同僚たちをみると、みんな一様に暗い顔をしていました。こんなついていないときに、微笑んでいられるヤツなんていないでしょう。自分も同じ顔をしているのかと思うと、悲しくなりました。
 
かん、かん、かん……。
靴底が金属に当たる、乾いた靴音を響かせながら、ぼくたちは階段を下り始めました。

ぼくが先頭になって階段をおりました。
すぐ後ろにN女史、S、O所長、N係長の順番です。
足元にまったく光がないだけに、ゆっくりした足取りになります。
みんな疲れきって言葉もないまま、六階の踊り場を過ぎたあたりでした。

 

 突然、背後からささやき声が聞こえたのです。唸り声とか、うめき声とか、そんなものではありません。よく、映画館なんかで隣の席の知り合いに話し掛けるときに、話しかけるときのような、押し殺した小声で、ぼそぼそと誰かが喋っている。

そのときは、後ろの誰か――所長と係長あたり――が会話しているのかと思いました。ですが、どうも様子がへんなのです。

ささやき声は一方的につづき、ぼくらが階段を降りているあいだもやむことがありません。ところが、その呟きに対して、誰も返事をかえす様子がないのです。

そして……その声に耳を傾けているうちに、ぼくはだんだん背筋が寒くなるような感じになりました。

 

 この声をぼくは知っている。係長や所長やSの声ではない。でも、それが誰の声か思い出せないのです。

その声の、まるで念仏をとなえているかのような一定のリズム。ぼそぼそとした陰気な中年男の声。確かに、よく知っている相手のような気がする。

でも……それは決して、夜の三時に暗い非常階段で会って楽しい人物でないことは確かです。ぼくの心臓の鼓動はだんだん早くなってきました。

いちどだけ、足を止めて、うしろを振り返りました。
すぐ後ろにいるN女史が、きょとんとした顔をしています。
そのすぐ後ろにS。所長と係長の姿は、暗闇にまぎれて見えません。

 

 ふたたび、階段を下りはじめたぼくは、知らないうちに足をはやめていました。何度か、鳩の糞で足をすべらせ、あわてて手すりにしがみつくという危うい場面もありました。が、とてもあの状況で、のんびり落ち着いていられるものではありません……。

五階を過ぎ、四階を過ぎました。
そのあたりで……背後から、信じられない物音が聞こえてきたのです。

笑い声。

さっきの人物の声ではありません。
さっきまで一緒にいた、N係長の声なのです。

超常現象とか、そういったものではありません。
なのに、その笑い声を聞いたとたん、まるでバケツで水をかぶったように、どっと背中に汗が吹き出るのを感じました。

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 カテゴリ:都市伝説・ネタ
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コメント

    • 名前: 匿名
    • 投稿日:2016/08/28(日) 01:50:45 ID:k2MzcyMjE

    で、どうしたの?

    • 名前: 通りすがり
    • 投稿日:2016/08/28(日) 02:12:33 ID:k2MzcyMjI

    会社の上司/同僚が、嫌がらせしてるだけって訳じなくて…?

    • 名前: 匿名
    • 投稿日:2016/08/28(日) 10:44:38 ID:k2MzcyMDM

    一緒に階段を降りている上司や同僚が、からかっているだけじゃ?…オチがわからん。

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