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真っ黒のカカシ

この記事の所要時間: 248

年末から年明けにかけて、俺は実家の在る群馬に戻って郵便局でバイトをしていた。

高校2年の時から長期休みの時は必ずこの郵便局でバイトをしていたし、田舎な事もあって、その郵便局の配達ルートを全て覚えていた。

そんな事もあって、局員には「即戦力が来てくれた」と喜ばれたが、今回初めて郵便局でバイトするという工房Sの引率を任されてしまった。

早い話が、2,3日一緒に配達して、配達ルートを覚えさせろという事だ。

このS、かなりの御銚子者で、俺とは直ぐに冗談を言い合える仲になった。

こいつが配る所は50ヶ所程度。

配る家は少ないが、次の配達場所まで滅茶苦茶遠い、俗に「飛び地」と呼ばれている地域だ。

 

バイトを始めて8日目だった。

俺とSの配達地域は隣同士だった事もあり、局に帰る時にバス停横の自販機で待ち合わせをしていた。

その日、Sは目を真っ赤にして涙を流しながら、猛スピードで自転車を漕いで現れた。

時間は17時になろうとしていて、バイトは局に帰らないといけない時間を大幅に過ぎている。

転けたらしく、顔も服も自転車も泥まみれだった。

「どうしたんだ?」と聞くと、「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」を繰り返すだけで要領を得ない。

俺は配達物を破損・紛失したのかと思って、「とりあえず局に戻るぞ」と言って、Sを引っ張って局まで戻った。

 

Sの姿を見た集配課の課長が何事かと駆け寄って来た。

課長が「どうした? 手紙をなくしちゃったのか?」と聞くと、Sは「全部配りました」と言った。

どうにもこうにも要領が得ず、俺が「何があったんだ?」と聞くと「信じてくれないから」とSは言った。

その後、数名の局員が帰って来て同じ様な事をSに聞いたが「信じてもらえないから」の一点張り。

一人の局員が「もしかして真っ黒のカカシを見たのか?」と聞くと、Sは何度も頷いた。

もう一人の局員が「ああ、森で?それとも川?」と聞くと、Sは「両方」と答えた。

 

 

Sの配達ルートに、Aという家がある。

配達物を見る限り、中年の夫婦が2人で住んでいるようだ。

其処に行くには、300mほどの暗い森を抜け、小さな小川を渡り、畑の中道を通らなければならない。

ぶっちゃけ、こんな所に家建てるなと言いたくなるような所だ。

そのA宅は20年くらい前に火事になったらしい。

その火事で夫婦の子供と年寄りの3名が亡くなったそうだ。

年寄りの爺さんは子供を病院に運ぼうとして、森の道で力つきて

婆さんは黒こげで小川に浮かんでいて、子供は救急車で病院に運ばれたが、移送先の病院で死亡したそうだ。

今、A宅があるのは畑の中道を通った所になっているが、前は今の畑があった所らしい。

局員の話では、爺さんは子供を捜して、婆さんは今も熱さから逃げようとしているんじゃないかという事だ。

 

「最初はカカシだと思った。だけど真っ黒な頭の目が開いた。真っ白だった」とSは言った。

俺もふと思い返してみた。

確かあの畑にはカカシは無かった。

だけど、今年になって一回だけ川に浮かぶカカシを見た気がする。

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