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道に迷いし者を誘う鈴の音

鈴
この記事の所要時間: 157

何年か前、丁度この時期に、妹から聞いた話だ。
それは、妹が近所のお寺から帰宅する途中の事だった。
照りつける夏の日差しと、けたたましい蝉の声にうんざりしながら、妹は近道をしようと裏道に入った。

然し、何かがおかしい。如何やら道を間違えてしまったようで、見た事が無い風景が広がっていた。

住宅街を歩いていた筈なのに、いつの間にか左右に田んぼが広がっており、周囲は竹林で囲まれていた。

前方には小屋があり、モーター音のようなものが聞こえてくる。人影は、無い。
進んでも抜けられる保証は無いと悟った妹は、直ぐに引き返そうと思った。

 

だが、その時、妹の耳に「りぃん」と鈴の音が届いた。
背筋に冷たいものを感じた妹は、踵を返さずに進む事にした。
妹が歩を進めると、「りぃん、りぃん」と鈴の音が響く。

最初は鍵に付いたアクセサリの所為だと思っていた。
否、思い込もうとした。だが、そもそも、鍵に鈴など付いていない。
徐々に大きくなっていく鈴の音は、明らかに背後から聞こえていた。

妹は追い立てられるように歩く。鈴の音は付いて来る。
いつの間にか、蝉の鳴き声は止んでいた。
田んぼの稲穂は枯れており、生温い風に揺られて手招きをしている。

 

気付けば、小屋がすぐ目の前に迫っていた。
もしかしたら、人が居るかもしれない。
藁に縋る思いで小屋に向かったのだが、その時、気付いてしまった。

小屋の中からする音は、モーター音などでは無かった。
「おぉおん、おぉおん」と地を這うような呻き声だったのだ。
その小屋に行ってはいけない。

そう思った妹は、小屋の前を通り過ぎ、兎に角、先を急いだ。
鈴の音に追いつかれたら、どうなってしまうのだろう。
小屋の中に居る「何か」に気付かれたらどうしよう。と恐怖しながら。

 

暫くして、さあっと視界が開けた。
目の前に広がったのは、見覚えがある大通りだった。
排気ガスと焼けたアスファルトの匂いが、妹を現実に引き戻す。

鈴の音はもう聞こえない。
背後を振り返ると、自分が知っている細道が続いているだけであった。

あれは一体何だったのだろうか。
蝉の鳴き声が茹だる空気を揺るがす中、妹は呆然と立ち尽くしていた。

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