大宮ゴーストバスターズ
この話もオレが20歳ぐらいの出来事でヤンキー霊能者の弟と体験した話。
実際に危機一髪のところで助かったが、ひょっとしたら二人とも殺されていたかもしれない…。
オレ達は、当時埼玉県の大宮駅西口から徒歩で30分ほどの場所に住んでいた。
オレは毎日帰りが深夜0時以降。そんな時間にその距離を歩いて帰っていた。
長い道程なので、オレも散歩がてら日々ルートを変えたりして、気だるくなる帰宅路のマンネリを避けるよう心掛けていた。
オレは霊感があまりない。見えないが感じるという表現がしっくりくる。
見えないおかげなのかはわからないが、幽霊というものにあまり恐怖心がない。
しかし、そんなオレでもこの数通りの帰宅ルートの中で怖いなと感じる場所がいくつかあった。
オレは霊的なものを感じる際には、首筋から背中にかけて悪寒が走り鳥肌が立つ。
霊が近くにいる場合は、生ゴミが腐ったような強烈な異臭を嗅ぐこともある。
その場所を通ると、意識をしていない時でも必ず悪寒がするんだ。
それともう1つ、帰り道には不可解なことがあった。
どのルートを選んで帰っても必ず出くわす野良犬がいるんだ。
雑種だと思うが、柴犬のような秋田犬のような風貌で割りと大きな犬だ。
そいつは必ずオレに近付いてきて、オレの頭上1mあたりの空間を見つめて吠えたてる。
毎回同じことを繰り返す。
動物は人間の何倍も霊感が強いというから、オレの頭の上に何かがいるんだろうとオレなりに解釈していた。
オレは、当時大病に冒されていて体力も精神力もかなり低下していたから、ヤバイもんに取り憑かれていても無理もない。
ある夜、家に帰ると弟がいた。
普段はさほど会話はしないが、その日は珍しく二人で話し込んだ。
会話の中で、不意にオレは帰り道の怖い場所についての話題を振った。
すると、弟は頷きながら…
『うん…確かにヤバイ場所が何ヵ所かあるね、試しにその場所言ってみてよ?』
オレは促され、わかりやすく地図を書きながら駅に近いほうから答えていった。
『焼肉屋…古い屋敷…民家…教会…小学校…』
弟は少し驚きながら言った。
『兄ちゃんさ…やっぱ霊感あるんだよ。それ全部オレがヤバイと感じてる場所だよ。』
二人共かなりテンションが上がっていた。
そして、オレが切り出した
『今から検証に行かないか?』
時刻は、午前2時を回っていた…
時間も絶好の時間帯。オレ達は早速家を出た。
自宅からは小学校が一番近いのだが…以前書いた弟vs鬼のタイマンリングもこの小学校であり、他にもオレ達が数えきれない程の不思議な体験をしてる場所なので、最後のお楽しみにした。
まず向かったのは教会だ。
この教会は、日中は児童館として開放しており、いつも子供達で賑わい怖いなんてイメージは誰も持っていないだろう。
オレ達はバス通りを挟んで教会の向かい側に立ち、深夜の暗闇に浮かぶ屋根のてっぺんにある十字架を見上げていた。
当時、この付近一帯は開拓前でありバス通りとは言え街灯の数も少なく夜はかなり暗い。
十字架から建物全体に目を移した時、オレは思わず「あっ!」と声を上げた。
教会の二階部分にある右端の部屋の窓に、白いものが過るのが見えたからだ。
誰もいないはずの深夜の教会で…一体何だろう?
『おい!今あそこに白いものがさ…』
弟はおもむろに答えた。
『うん…兄ちゃんも霊が見えたね。あれが霊だよ。オレには5歳くらいの男の子が手を振ってるのがハッキリ見えるけど…』
霊感が強い人間の側にいると、その影響を受けて霊を見えない人間でも見ることがある。
オレは、その時初めて霊を見た。
弟によるとその男の子は以前、この教会の児童館に通っていたらしく、数年前にここへ向かう途中に事故に遭い亡くなったという。
死んだことに気付かず、未だにこの教会で遊んでいるらしい。
一緒に遊びたいのか、ずっと手を振ってオレ達を呼んでいた。
『でも、あの子が兄ちゃんの悪寒の原因じゃないよ』
弟がそう言うのに納得は出来る。
悪寒がすると、瞬時に恐怖を覚えるからだ。あの子に悪意は感じない。
『この教会は鬼門になっていてたまに霊道が開くんだ。だから悪霊達もここの周りにはたくさんいる。兄ちゃんはそれを感じるんだよ。』
なるほどだった…
弟の力に関心しつつ、頷くばかりのオレだった。
それにしても、この検証企画…のっけからいきなりのハードな展開に好奇心が更に増幅していた。
『次は焼肉屋に行こうぜ!』
オレ達は、このバス通りの先にある焼肉屋を目指して歩き始めた。
焼肉屋に向かって、バス通りの狭い歩道を歩いていた。
オレが車道側を歩いていたが、突然弟に左腕を引っ張られた。
『兄ちゃん危ねぇよ!』
『いきなりなんだよ!?』
『さっきの子供は見えてコイツは見えないの?』
弟は、車道の路肩部分のコンクリの出っ張りを指差して言った。
弟が言うには、そこには白いランニングシャツに猿股という格好のハゲジジィが座ってるという。
浮遊霊らしいが、オレは見えないどころか存在すら感じなかった。
『もう少しで蹴るとこだったよ。大した奴じゃないけど、はずみで取り憑かれたら厄介だからね。』
その夜だけは、弟の言うことを素直に聞くオレだった。
しばらくして焼肉屋に到着した。
この時間でも当たり前のように営業してる大型チェーンの店舗だ。
やはり、異様な臭いが漂ってる。これも弟といるせいなのか、いつもより臭いがキツイ。
おもむろに、弟が数台分の狭い駐車スペースを横切り、店舗脇にある勝手口が見える場所で立ち止まった。
『兄ちゃん見える?あそこにオッサンが立ってるんだけど…』
弟が指差す方向を凝視するが、オレにはやはり何も見えない。
上は白いTシャツに黒っぽいズボン…腰に長めの白いエプロンをつけてる小太りのオッサンがずっと勝手口を睨んでるらしい。
過去に、この焼肉屋の場所に個人経営の小さな中華料理屋があったという。
しかし、経営難のため廃業。店主は借金を苦にして自殺した。
どうやら、そのオッサンの霊の正体はその店主らしい。
逆恨みが強い念となり、この場所に強い霊気を放っているのだ。
『ちょっとわからせてやるか』
弟は、尻のポケットから数珠を取り出した。オレは知らなかったが、弟は常にマイ数珠を携帯しているようだ。
数珠はこの世でいうところの短刀…いわゆる「ドス」に相当する程、霊を相手にする時にはかなり強力な武器になるという。
弟は勝手口のほうへ歩いていき、数珠を握った右手を振りかざして斜めに空を切った。
まるで刀で人を切るように…
『お前何したんだ?』
『やっつけた』
『はぁ?お前は陰陽師か?』
弟に言わせると、そのオッサンの念は放っておくと悪霊に変わるから今のうちに排除したらしい。
弟には関係ないから今までは無視してきたけど、せっかくの機会だからやったらしい。
弟は一体何者なのか?
前世とかいまだに教えてくれないんだ。
弟が焼肉屋の霊を祓ってから、辺りの異臭がなくなった気がした。
オレは何もしていないが、なぜか誇らしげな気分で意気揚々と次の目的地へと歩を進めた。
次に向かうのは古い屋敷と民家だ。
この2軒は同じ一画にあり、数軒しか離れていない。
しかも、焼肉屋の裏手の方角にある。
オレ達は、焼肉屋の脇の路地から住宅街に入った。
たった今、大仕事を終えたばかりというのに、弟はオレとは正反対に浮かない顔をしていた。
そして、その屋敷の区画に入る曲がり角の手前で弟は立ち止まってしまった。
『おい!どうした!?』
『………………。』
『おい!』
弟は、うつ向きながらしばらく黙って立ち尽くしたままだった。
時間にして1分程経っただろうか?
弟は急に呼吸を荒げてよろけた。
『ハァハァ…急に金縛りになっちまったよ…』
『大丈夫かよ?』
『今のは解くのに苦労したよ。』
そう、弟は金縛りにあってもいつも自分で簡単に解いちゃうらしいんだ。
そんな弟が苦労する金縛りってどんなものなのか?
『兄ちゃん…悪いけどここから先は行かないほうがいい…』
『何があったんだ?』
弟が言うには、この一画に巣食っている悪霊達の恨みの力はとんでもなく強力で、弟ですら勝てるかどうかわからないらしい。
金縛りの最中ずっと、その悪霊達が弟に「近付いたら殺す」と言っていたという。
おそらく、悪霊達も弟を恐れているから脅すのだろうが、わざわざ事を荒立てることもないと弟は判断したようだ。
この屋敷と民家では昔、一家惨殺があったとのこと。
時は違えど、同じ区画で二度も殺人が起きるのは、悪霊の力が働いているに違いない。
そんなことを言われてまで屋敷へ行くほどオレは馬鹿じゃない。
弟もいつの間にか元通り元気になっていたので、最後の難関である小学校へ向かうことにした。
前述したが、この小学校では様々な体験をさせられている一番の恐怖スポットなわけだが…
この後、オレ達がとんでもない事態に巻き込まれるとは…この時点では思いもよらなかった。
先に言っておく。
遊び半分で、そんな場所へ行っては絶対にいけない。
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