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古いアパートに開いていた小さな覗き穴

この記事の所要時間: 232

大学生の男は古いアパートで一人暮らしをしていた。

男の部屋の壁には、小さな穴が開いており、そこから隣の部屋の様子がのぞき見ることができた。

隣の入居者は若い女性。

女性はのぞき穴の存在に気付いていないらしく、男はこれ幸いとばかりにのぞき行為を続けていた。

 

そして、ある日の事。

夜中の3時をまわった頃、男はドスドスという物音で目を覚ました。

何事かと思えば、隣の部屋から聞こえてくる物音だった。

もしかして男でも連れ込んだか?と思い、喜び勇んでのぞき穴を覗く。

隣の部屋も電気を消しており、詳しい様子をうかがい知る事はできなかったが、人影が二体あることは確認できた。

これは間違いない、と男は興奮したが、すぐに様子がおかしいことに気付いた。

 

男と思われる大きな人影が動くばかりで、女性のほうは全く身動きしていないのだ。

暗がりに目が慣れてくると、男が女性を殴りつけているということが分かった。

女性は猿ぐつわを噛まされているらしく、微かに

「うっ」

という声を漏らすだけで悲鳴をあげられなかった。

終には呻き声も聞こえなくなった。

すると男の人影は隣の部屋から出て行った。

 

強盗だ!

男は警察に通報しようと思い、電話の受話器に手を掛けたところで動きを止めた。

もし通報すれば自分がのぞきをしていたことがばれてしまう。

自分の保身のために、男は通報を思いとどまった。

 

一週間としないうちにアパートに警察が押しかけてきた。

やはり隣の女性は殺されていたらしい。

当然、警察はのぞき穴の存在を発見し、何か見なかったかと男に聞いた。

男は

「壁の穴なんて気付かなかった。その日もなにがあったか気付かなかった」

と言った。

他にもいくつか質問されたが、警察は男のことを疑っている様子は無かった。

殺人の瞬間を目撃したことは忘れられなかったが、通報しなかった事への罪悪感はすぐに薄れていった。

事件から二週間たっても、犯人は依然として捕まらなかった。

 

そして、ある日の事。

夜中の3時をまわった頃、男は再びドスドスという物音で目を覚ました。

しかし、隣の部屋は事件以降、新たな入居者は入っていないはずだった。

それでも、その物音は間違いなく隣の部屋から聞こえてくる。

恐る恐るのぞき穴をのぞいて見たが、動くものの気配は無い。

気のせいか、と思い穴から離れようとした瞬間、

 

狭い穴の視界を埋め尽くすように、かっと見開かれた血走った目が現れた。

男はがっちりと目を合わせたまま、驚きのあまり身動きが取れなかった。

 

そして、かすれた女の声で一言、

 

「見てたでしょ」

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