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終了間際の銭湯

この記事の所要時間: 322

今から十数年前に、私の身に実際に起きた出来事です。

その日、私は仕事が遅くなり、自宅のアパートへ帰り着いたのは、夜10時前でした。

早速風呂へ入ろうと思いましたが、あいにく共同風呂のボイラーが故障中で2,3日は入れないという事だったので、近所の銭湯へ行くことにしました。

そこの銭湯は、営業時間が10時までで、そのせいか、番台には婆さんが座っていましたが、脱衣所には他に誰もいませんでした。

私は、何であれ終了間際の雰囲気が大の苦手なので、風呂場に入るなり、猛スピードで頭を洗い始めました。

 

カラカラ、と風呂場のガラス戸が開く音がしました。誰かが入ってきたようです。

足音が、私のすぐ後ろを横切って湯船の方へ向かいました。

ザァー、ザァー、と湯を浴びる音が聞こえてきました。

頭の泡を洗い流して湯船のほうをチラっと見ると、確かに誰かが入っています。

ただ、極端に目の悪い私には、湯船の人影はボンヤリとしか見えませんでした。

と、その男がこっちに声を掛けてきました。

「…しかし、この辺りもえらい変わっていまいましたなぁ。」

どうやら、久しぶりにここらへやって来た人のようです。

それをきっかけに、私とその人影はしばらく言葉を交わしました。

細かい内容は忘れましたが、確かこんな事を言っていました。

「古い友人がここらに居りましてな。そいつに大きな借りがあったんで、それを返そうと思って…」

一緒に湯に浸かりながら、5分ほど話を続けたのですが、営業時間の事が気になった私は、先に風呂場を出ることにしました。

 

 

脱衣所へ出て驚きました。いつの間にか電気が消え、真っ暗になっています。

番台に座っていたはずの婆さんも居ません。

(もう閉めたんかな?)そう思い、慌てて服を着ました。

帰り際に風呂場の方を見ると、さっきの人影が、今まさに出てくる様子でこっちへ近づいくるのが、ガラス戸の曇りガラス越しにボンヤリと見えました。

 

外へ出ると、表にパトカーが一台止まっていました。

(なんやろ?)立ち去ろうとした私に、警察官が話しかけてきました。

「おい、こんなとこで何してるんや?」

「何て、風呂入りに来ただけですやん。」

警官は妙な顔をしました。

「風呂って、今日はここ営業してないぞ。」

「え、でもさっき僕入りましたよ、おばちゃんに金払ろて…」

「おばちゃんって、ここの婆さんか?」

私が頷くと、警官は背を向け、背広の男を呼んできました。

その男は、私に向かって言いました。

「ここの銭湯の爺さんがね、今日の昼1時頃に灯油かぶって自殺しよったんですわ。すぐ通報があって、私ら1時半にはここへ来ましてん。あんたがさっき番台におった言うたお婆さんな、可哀想に、わしらが着いた頃には気ぃ狂てしもて、今病院ですわ。」

私はあ然としました。

「そんなアホな。一緒に…おじいさんも入ってたんですよ。」

「おじいさん?」

「そういや、まだ出てきてないみたいですね…」

そう言って、私は警官達と一緒に銭湯の中に入りました。

 

やっぱり脱衣所は真っ暗でした。あの人影はどこにもいません。

風呂場のガラス戸を開けると湯気がモワっと出てきました。

「…おい、これ見てみぃ…」

警官の一人が床を指さしました。

見ると、泥だらけの足跡が湯船まで続いています。

その先の湯船の外に、子供用の古い靴がきちんと並んで置いてありました。

 

一応、これで終わりです。

なんだか良くわからない話を長々とスミマセン。

あったことをそのまま書くと、こうなってしまうんです。

自分的には、これが今までで一番洒落になってない体験です。

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