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シングルベッドだらけの中にある二段ベッド

この記事の所要時間: 249

ある日、警衛(駐屯地の警備)勤務についていました。

その時の編成は自分の所属する中隊ではなく、各中隊からの混成でした。

あっという間に昼のシフトが終わり、夜間のシフトに移行しました。

深夜十二時頃を過ぎると、さすがに駐屯地中が静けさに包まれました。

勤務も単調になったとき、ある中隊の若い隊員(山井:仮名)が口を開きました。

「俺、今度の満期で辞めるんですよ」

この言葉から始まった会話は、深夜にもかかわらず、結構盛り上がりました。

何とはなしに彼が入隊した時の事に、話は及びました。

そこで、

「とんでもない目に遭った!」

というのです。

 

彼は入隊後の教育終了と同時に、北海道のある部隊に配属されました。

着隊して部屋に案内され、自分のベットを示されたとき、アレ?と思ったそうです。

それは、シングルベッドが、ずらりと並ぶ中で自分のベッドだけ二段ベッドなのです。

しかも、下が空いているにもかかわらず、上の段で寝るように言われたそうです。

その時は、

「ああ、たぶん教育か何かで、長期不在の人がいるんだろうな」

くらいにしか思わず、さして気にも留めなかったそうです。

しばらく経つと、職場の雰囲気にも慣れてきたので、自分の下の段に寝ている人の事を訊ねてみました。

すると、奇妙な事に誰のベッドでも無い、と言うのです。

「じゃあ、下で寝かせて下さいよ」

と、彼が申し出ると

「いいから上で寝ろ」

の一点張り。

イジメにしては何だか様子がおかしいとは思いながらも、仕方なく上で寝たそうです。

 

 

そんなある日の夜の事でした。

夜中に彼は息苦しさで目を覚ましたそうです。

すると、ベッドのすぐ脇に誰かが立っていたそうです。

しかし、消灯後とはいえ薄明るい室内にもかかわらず、その人物は黒い塊のようで一切、顔が見えなかったそうです。

「なんだ?」

と思っているのも束の間、その影がいきなり首をしめてきて、彼にこう言うのです。

「やまいぃ~、やまいぃ~、俺の頼みを聞いてくれぇ~」

と。

首を絞められて、苦しさにもがく彼は(なにが聞いてくれじゃ。こんな事しやがって)と声にならない叫びをあげたそうです。

すると、その黒い影は前にも増して迫ってきたそうです。

さすがの彼も、これはたまらんと思ったらしく声に出して

「イヤじゃ。誰がきくか!」

と叫んだそうです。

すると、その影は寂しそうに消えていったそうです。

 

次の日、これはただ事ではないと同じ部屋の者に問いただしてみましたが、一切、口をつぐんで喋りません。

すると、見兼ねた同じ中隊の違う部屋の先輩が、事の真相を教えてくれたそうです。

実は、彼が着隊する半年ほど前に、失恋を苦にして青函連絡船から身を投げた者がいて、その人が使っていたベッドが、まさに、この二段ベッドの下だったとの事でした。

最初はシングルだったのだが、あまりに怪奇現象が起こるのでやむなく、二段にしたとの事でした。

 

しゃれにならんほど怖かったそうです。

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