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これは絶対目を開けちゃあだめだ!

この記事の所要時間: 656

私には10歳離れた妹がいまして、寝物語に話していたりしていたせいか、弱いながらも霊感がついたようです。

そうは言ってもちょっと見えるとか、夜中に誰もいないのに何度も名前を呼ばれた程度の経験だったのですが、少し前、電話してきた話を聞いていて
「これはキテる!」
というのがあったので書かせてもらいます。

 

今年の4月頃の話でした。

彼氏が引っ越しをしたというので、妹が荷ほどきの手伝いに行った時のことです。

 

彼の部屋はマンションの3階。

通りとは面していないのでそれほどうるさくないはずなのですが、幹線道路らしく、車の音はよく聞こえました。

一通り荷物をほどき、邪魔な段ボールはベランダに置いて、その日は新しいベッドで、彼は壁側に、妹は窓側で眠りました。

昼間の疲れからかすぐに眠りについた妹ですが、夢をみたそうです。

 

夢の中で、妹は銭湯から帰るところでした。

首にタオルをまいてプラプラと歩いていると、暖かいラーメンが食べたくなったそうです。

 

大通りの向こうにあるお店に向かって歩いていると、街路樹の植えてある大きな交差点に出ました。

アベックが立っていました。歩道を降りた路肩に。

彼らは信号が青になっても動こうとせず、じっと佇んでいます。

妹が交差点に着くまで何度も信号が変わったのですが、それでも動こうとしない彼らを不思議に思い、妹は声をかけてみました。

 

「あの、どうかしたんですか?」

女性の方が低い声で答えました。

「…なんだかとても寒くて…」

 

よく見ると二人ともパジャマを着ています。

足にはスリッパを履いていて、まるでさっき病院を抜け出してきたような出で立ちでした。

 

「今から私ラーメンを食べに行くんですけど、良かったら一緒に行きませんか?」

寒そうにしている二人を見て親切心が働いたのか、妹はそう言いました。

「…ええ…ありがとう…」

女性の方が静かに答えます。

 

信号が変わるのを待ち、三人は並んで歩き出しました。

ですが、妙なんです。

普通アベックなら寄り添って歩くものなのに、この二人は妹を挟むようにして歩き出すのです。

それも妹の体に触れながら。

 

「いいなぁ…暖かい体…いいなぁ…」

「あったかぁい…いいなぁ…欲しいなぁ…暖かい体…」

 

妹の体を撫でるようにして二人はそうつぶやいているのです。

これはヤバイと思った妹は、信号を渡りきると、首に巻いていたタオルを渡しながら二人に言いました。

 

「ごめんね、私急いでいるから先に行くね。ラーメン屋さんはすぐだから。寒いならこのタオルを巻いてね。」

 

妹は二人を振り払い、急ぎ足で歩き出しました。

追ってくると思い後ろも見ずにいたのですが、その気配はありません。

 

少しして振り返るとアベックは妹と別れた信号機のところで、いまだに立ち止まっています。

ちょっとだけほっとして前を向いた瞬間、真後ろから

「いいなぁ…暖かい体…欲しいなぁ…」

と言う声が聞こえて来たのです。

妹は必死になって走り出しました。

ここで妹は目を覚ましたそうです。時間は朝の4時頃でした。

 

 

妹が飛び起きたのに驚いて、彼も起きたそうですが、話をろくに聞こうともせず、また眠ってしまいました。

彼は幽霊を信じないたちです。

それも
「いると思うと怖いから」
という理由なので、怖い話が大の苦手なのでした。

まあ眠かったというのもあるんでしょうが…。

彼の態度に頬を膨らませながらも、妹もまた眠りにつこうとしました。

 

その時、道路を歩く足音が聞こえて来ました。

もう車もろくに通らない時間です。

 

シンと静まり返った世界では小さな音でもよく響くのかもしれません。

ただ、普通の足音ではありませんでした。

 

パタ…パタ…パタ…

スリッパのような足音です。

先ほどの夢のことがあります。

妹は単なる偶然だと思いながらも耳をじっとすませていました。

 

足音は徐々にマンションに近づいて来ます。

パタ…パタ…

足音はマンションの入り口付近まできたようでした。

 

(早く行ってよ…)

妹は心の中で願っていました。

 

けれど足音はより近くなってきます。

パタ…パタ…パタ…

どうやら路地を抜け、マンションの裏手に近づいて来るように聞こえます。

 

妹の頭はパニック状態でした。

(まさか?…けど…)

足音は彼の部屋の真下辺りで止まりました。

 

もうすっかり眠気は醒めていました。

今は足音に全神経を集中させています。

 

ギッ、ギシ…
何者かがベランダの柵をよじ上るような音がします。

音は1階から2階へ上がってきました。

ゆっくりと上る音の主がどこを目指しているかなど、考えたくもありません。

 

ギシ…ギシギシ…

遂に音は妹の寝ているベランダから聞こえてきました。

ギシ、…ギシギシ…

 

ドン!

 

ベランダに置いてあった段ボールの上に何か重い物がが降りる音がしました。

確かに窓の外に誰か…「何か」がいます。

 

ですが、ベッドを降りてカーテンを開ける勇気などありません。

妹はそのまま目をぎゅっとつぶっていました。

 

向こうに何かが立っている、それは見なくてもはっきりと感じられたそうです。

普通は念仏を唱えたりしそうですが、妹は怖がりながらも、声に出さずに腹を立てていました。

 

「あたしになにが出来るっていうのよ!何にも出来ないんだから早く出てってよ!今すっごく幸せなんだから!体なんか、絶対あげないからね!」

 

やがて、妹は金縛りにあいました。

布団のまわりに人の気配がします。それも二人。

かなり悪意に満ちた霊気を感じた妹は・・・

 

これは絶対目を開けちゃあだめだ!と思ったそうです。

ですが、むりやり瞼をこじ開けられるかのごとく、目が徐々に自分の意志に逆らって開いていくのです。

 

開いた目には、例の二人が映っていました。

 

二人は妹のベッドの周りをゆっくりと回っていました。

最初、布団の周辺を歩いていたのが、徐々に輪を狭めるようにして妹に近づいてきます。

それにつれ、腰を曲げ、しゃがむような格好で顔を近づけて来ました。

 

女性の髪が顔に当たっているのがわかります。

それこそ妹の顔から10cmくらいまで近づいた時、

連れていこうか…

という女の声が妹の頭に響いきました。

落っこちているおもちゃでも持っていこうか、というような、素っ気ない言い方でした。

二人は動けない妹の布団を剥ぐと両手を持って引っ張りあげようとしました。

 

(いや、いやだって!あたしは行きたくない!!)

 

妹は動けない体で必死に抵抗しました。

どうにか動かせるようになると、夢中で女の手を振り払いました。

すると女性は

なんでそんなことをするの?

とでもいうように、顔をしかめると手を離し、そのまま押入の方へ歩き出して行きました。

二人は押入のドアから、どこかに吸い込まれるように消えてしまいました。

 

引っ張られた感触よりも、あのときの女性の髪の感触の方が嫌だった、と妹は言っていました。

怖がりの彼にこんな話をするわけにもいきません。

ですから、彼はまだそのマンションに住んでいます。

 

それにしても、妹が連れて行かれようとしたのは、やっぱり「あの世」だったのでしょうか…

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