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オンボロ工場の閉ざされたフロアで体験した奇妙な出来事

この記事の所要時間: 453

数年前に勤めていたバイト先での話です。

そのバイト先のオンボロ工場は4階建てですが、使用されているのは1階と2階だけです。

3階と4階は十数年前までは倉庫として使われていたそうですが、現在は全く人の出入りはありません。

 

社員の話によれば、施錠されたまま鍵も紛失してしまって、そのまま無駄な上のフロアの放置を気にするものは誰もいなくなってしまったということなのだそうです。

倉庫の中に何が仕舞われていたのか、最後に使用されたのがいつなのか、もう誰も覚えていません。

 

 

ある日のことです。

1階と2階との間のみで往来する汎用のエレベーターが故障してしまって、普段ほとんど使用されたことの無い貨物専用のエレベーターが臨時で使われることになりました。

山積みにされた機械や荷物をどけるとその小型エレベーターは隅っこで埃にまみれてひっそりと佇んでいました。

稼動するかどうか心配はあったのですが、電源スイッチを入れると何の故障も無くそれは扉を開けました。

 

1階で貨物を積み入れ、2階に送ります。

よく見ると、3階と4階の行き先ボタンもありました。

僕らアルバイト学生はこれを見て全員が同じことを考えました。

「上のフロアに行ける唯一の手段である」

と。

 

30分間の休憩時間、社員の姿がなくなるのを確認して、僕達はジャンケンを始めました。

負けた者二人が三階と四階を探検してくるのです。

Aがビリで四階、僕はその次だったんで三階を探検しなければならなくなりました。

 

それぞれ懐中電灯を手に、エレベーターに乗り込みました。

貨物専用なので、扉が閉まった時点から暗闇です。

まず三階で止まりました。僕らは息を飲み、扉が開くのを待ちました。

ひんやりしたカビ臭い空気が流れ、ゆっくり扉が開きました。

 

懐中電灯で照らすと、フロアは二階とほぼ同じ作りになっているらしいことがわかりました。

「じゃぁお先に…」

僕はAを残して恐る恐るエレベーターから出ました。

 

「気をつけてな」

Aがそう言い終らぬうちに扉は閉まりました。

エレベーターは四階へ上って止まりました。

 

取り残された僕は、まずフロアの照明スイッチを探しました。

多分二階と同じ場所にあるだろうと思って奥のほうへ歩いて行ったのですが、見つかりませんでした。

とりあえず壁伝いに歩いて探すことにしました。

ほとんどがらんどうになっていて、目を引く物と言えば山積みにされたコンテナ、埃を被った作業机、乱暴な殴り書きの「禁煙」の張り紙、それと、えらく古い型のエアコンくらいでした。

 

壁伝いに半周ほどしましたがスイッチはみつかりません。

道路沿いの窓まで歩いて、外を眺めると、いつも見ている二階からの風景とちょっと違うようでなんだか新鮮な感じがしました。

窓の周辺は月明かりで多少良く見渡すことができました。

てるてる坊主がひとつぶら下がっていました。

 

Aはいまごろ何やってるだろう…

と思った時にちょうどエレベーターの扉が開き、Aが出てきました。

「おーい、そろそろ戻ろー」

「はーい」

エレベーターに乗り込み、社員に見つからないように僕らはそっと二階へ戻りました。

 

僕もAも、待ち構えていた他のバイト学生たちにこれといって話すほどの冒険譚は何も無かったんで、さほど盛り上がることも無く休憩時間は終わりました。

深夜、仕事が終わり、帰り支度をしながら僕はAと先ほどの探検についてちょっと話しました。

Aの行った四階には中身のわからないダンボールや貨物が多少あったそうですが、やはり他には目を引くようなものは何もなかったということでした。

僕はと言えば、印象に残ったものと言えば、「禁煙」の張り紙と窓際のてるてる坊主ぐらいで、幽霊の一匹くらい出ても良かったのに、とクスクス笑ってしまいました。

Aもつきあいでちょっとニヤッと笑いましたが、すぐに真顔にもどりました。

 

それはちょうど僕らが自転車に乗って道路を渡ろうとしていた時でした。

Aは笑うのをやめ、しばらくボーっとしていました。

「どうした?幽霊にでもとりつかれたんじゃないの?」

僕はニヤニヤしながら冗談を言いました。

 

「さっき月明かりがどうって言ってたよね」

Aがそう言うのを聞いて僕はアッ!と思いました。

月は出ていませんでした。でも確かに窓の辺りは明るく照らされていました。

 

「じゃぁあれは町の明かりに照らされていたのを勘違いしちゃっただけなのかなぁ…」

たしかに月を見た気もしたんですが、気のせいだったようにも思えますし、現に月は出ていませんから、そうとしか言い様がありません。

 

そして道路を渡り終えたところで、やがてAが再び口を開きました。

「ヤバイかも…」

彼の言う意味がはじめ良くわからなかったんですが、彼の視線の先を見たときに僕もそれを理解し、頭の中がパンクしそうになってしまいました。

何がなんだかわからなくなってしまったのです。

道路を渡ったところで初めて高い塀で囲われた工場の三階四階の壁が見えるのですが、そのどこにも、窓が付いていなかったのです。

 

僕はさすがにもうその工場でバイトする気になれずにそのまま辞めてしまいました。

Aも数週間後に辞めたそうです。

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