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何度も目撃してしまう心霊写真の中年男

この記事の所要時間: 613

ある心霊番組の制作をやった時のこと。同じチームにDさんって先輩がいた。

ある日、視聴者から番組あてに送られてきた心霊写真を数人でチェックしていた。

その途中で回ってきた一枚の写真。

夜の路上、数人でガードレールにもたれて笑い合うその後ろ…あり得ない場所に男の姿。

30~40歳位のアゴのたるんだ中年男。そこまで分かるくらい鮮明に写っている。

「二重写しなんじゃねーの」

「ありがちだよね。パンチ不足」

確かに既出っぽい印象だったし、一目見て怖いって思うような心霊写真じゃなかった。

「どれ…」

Dさんもその写真を手にとり、じっと睨み付けた。

 

「どうしたのDさん。それ使えそう?」

私の問いに、Dさんは写真を見つめたまま答えない。心なしか顔色が変わっている。

「…これ送ってきたの誰?」

スタッフの一人が封書の名前と住所を読み上げ、それを聞いたDさんは眉をひそめた。

「何?知ってる人?」

「いや、初耳だよ。送ってきた人に心当たりはない。だけど…」

Dさんは写真に写っている痩せ型の男の顔を指差してこう言った。

「こいつに見覚えがあるんだ。間違いない」

「それって知り合いの人の霊ってことなの?」

「そうじゃない。顔見知りの霊…ってチョット違うか。いや、妙な話なんだけど─」

 

事の起こりは、Dさんがこの仕事を始めた頃、ある番組に送られてきた心霊写真だった。

冴えない中年男の顔が、子供の足下の地面からヌゥッと突き出ている。

クッキリと写ってはいるが、アングルがあり得ない上に顔のサイズも大きすぎる。

Dさんはその写真をモニター越しに見たのだが、その時は特に強い印象は受けなかった。

 

2度目の出会いは、自身が制作に携わった番組のスタジオ収録でのこと。

酒蔵の中で撮影された女性の背後、パイプの隙間の暗闇にボンヤリと浮かぶ青白い影。

ズームされた瞬間、そこにあの男の顔を見たDさんは、思わず声を上げてしまった。

そして、今回送られてきた写真。またもや、忘れようもないあの顔がハッキリと写っている。

 

「─というわけで、コイツの顔を拝むのはもう3回目なんだ。そう言う意味では顔見知りって言えないこともないわな」

3枚の写真は、送り主もロケーションも撮影日もバラバラで、互いに何の接点もない。

ただ、その場に居るはずのない、ある男が写りこんでいる点だけが共通している。

そんな写真が3回もDさんの目に触れた。これは偶然なのだろうか?

 

「やっぱ偶然…ですかね」

「さぁな。ただ、世の中に心霊写真がどれだけあるのか知らないけど、俺はこんな心霊写真を他に見たことがないし、そんな写真があるって話を聞いたこともない」

Dさんは、何か文句があるなら言ってみろ、というような顔つきで私を睨んだ。

 

「…で、何かあったんですか?」

「何が?」

「だから…よくあるじゃないですか、霊障だとか何とか」

「どうかなぁ。身体はどこも具合悪くないし、特に不幸事もないしなぁ」

「じゃあ、その男がDさんの写真に写ってたとかはない?」

「うーん、覚えはないなぁ。オレ写真写り悪いから嫌いなんだよ、撮られるの」

「写す側にしてもそそられませんよ。40過ぎのむさい野郎なんて」

「悪かったな…つーか、この年で独身ってのはコイツの祟りなのか?オイ…」

 

後は、いつものようにDさんの愚痴を聞くハメになった。

 

それからしばらくして、Dさんに女の子を紹介する事になった。

とりあえず写真を見たい、という先方の要望を伝えると、Dさんは写真の束を私に押しつけ、

「適当に選んどいてくれ」

とロケに行ってしまった。

しかたなく、私はDさんの「適当な」写真を選ぶという不毛な作業を始めた。

 

写真を撮られるのが嫌いと言うだけあって、スナップ写真ですら数が少ない。

パラパラと写真を繰っていると、後ろからポンポンと肩を叩かれた。

振り返ると、番組の女性スタッフが坊さんを一人連れて立っていた。

 

「今良いかな?この人、○○寺の住職さん」

「あーハイハイ」

「今度番組に出てもらうんで打合せに来てもらったんだ。ちょと部屋借りられる?」

「ちょっと待って下さい…」

席を立とうとして、坊さんの視線がDさんの写真に向いているのに気づいた。

 

「この人…」

「ああ、番組のスタッフですよ。今はちょっと出てるんですけど」

ちょっといいですか、と断ってから、坊さんは写真の束を取り上げた。

「おかしな写真ですね。この人、大丈夫なんですか?」

眉間にしわを寄せて、そんな事を言う。

「どういう事ですか?」

「この人、写真の顔と実際の顔が違う感じがしませんか?…ホラ、これもだ」

坊さんはDさんの写真を次々と机に並べる。言われてみればそんな気もしてきた。

 

「そうですね。そう言えば、本人も写真写りが悪いって気にしてましたよ」

「そんなレベルじゃないでしょう。例えばこれ、別人の顔でしょう?」

そう言って、坊さんはDさんのアゴのあたりを指差した。だらしなくたるんだアゴ。

「あれ?Dさんってどっちかっていうと痩せてる方ですよね?」

女性スタッフが頓狂な声を上げた。

確かに、実際に見るDさんの顔はもっとシャープな印象だ。

少なくとも、こんなにアゴがたるんでいるようには見えない。

「何なんですか、これ?」

「顔の下半分が別人と重なってるんです。ほら、この写真は鼻から下ですね。」

坊さんは手の平で顔の下半分を隠した。すると、実際のDさんの印象にグッと近づく。

「…で、これは目から上」

別の写真の、今度は顔の下半分を覆う。

「本当だ…こっちのほうがしっくりきますね」

 

そこで、私はあることを思いついた。

2枚の写真のカラーコピーを取り、それぞれの顔の上半分と下半分を切り抜いた。

それをつなげてみる…すると、例の中年男の顔が現れた。

背筋が急に寒くなる。

 

「…これって生きている人の仕業ですか?」

「違います。霊ですね。死霊です。ここまで綺麗に重なっているのは記憶にありませんが」

坊さんはあっさりとそう言った。

「たまにあるんですよ、こういう現象って。写真写りが悪い時なんかは要注意です」

「要注意って…霊障とか、そーいうのはあるんですか」

「さあ分かりません。ケースバイケースでしょう。ただ、こうなってしまうと─」

そこで一呼吸置き、Dさんの写真を指差した。

「─何にせよ、もう手遅れです」

 

夜になって帰ってきたDさんには、坊さんとのやりとりは何も話さなかった。

その後、Dさんの仕事振りに変わりはない。

ただ、紹介した女の子には見事に振られたようだ。

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