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行方不明者が後を絶たない禁断の地で遭遇したバケモンの尻尾

この記事の所要時間: 1156

これは、俺の祖父の父(俺にとっては曾じいちゃん?)が体験した話だそうです。

大正時代の話です。大分昔ですね。曾じいちゃんを、仮に「正夫」としときますね。

 

正夫は狩りが趣味だったそうで、暇さえあれば良く山狩りに行き、イノシシや野兎、キジなどを獲っていたそうです。

猟銃の腕も、大変な名人だったそうで狩り仲間の間では、ちょっとした有名人だったそうです。

「山」という所は、結構不思議な事が起こる場所でもありますよね。

俺のじいちゃんも、正夫から色んな不思議な話を聞いたそうです。今日は、その中でも1番怖かった話をしたいと思います。

 

 

その日は、カラッと晴れた五月日和でした。正夫は、猟銃を担いで1人でいつもの山を登っていました。

愛犬のタケルも一緒です(ちなみに秋田犬です)。

山狩りの経験が長い正夫は、1人で狩りに行く事が多かった様です。

その山には正夫が自分で建てた山小屋があり、獲った獲物をそこで料理して、酒を飲むのが1番の楽しみでした。

 

その日は早朝から狩りを始めたのですが、獲物はまったく捕れませんでした。

既に夕方になっており、山中は薄暗くなってきています。

正夫は、「あと1時間くらい頑張ってみるか」と思い、狩りを続ける事にしました。

 

それから30分ほど経った時です。正夫が今日の獲物をほぼ諦めかけていると、突然目の前に立派なイノシシが現れました。子連れです。

正夫は狙いを定め弾を撃とうとしましたが、突然現れた人間にビックリしたイノシシは、急反転して山道を駆け上がって行きます。

正夫は1発撃ちましたが、外れた様です。愛犬のタケルが真っ先にイノシシを追います。正夫もそれに続き、険しい山道を駆け登りました。

 

15分ほど追跡したでしょうか。とうとう正夫はイノシシの親子を見失ってしまいました。

タケルともはぐれてしまって途方に暮れていた所、遠くでタケルの吠える声が聞こえます。その吠え声を頼りに、正夫は山道を疾走しました。

さらに10分ほど走った所にタケルはいました。深い茂みに向かって激しく吠えています。

そこは、左右に巨大な松の木がそびえており、まるで何かの入り口の様にも見えます。正夫は、そこを良く知っていました。

 

狩り仲間の、いえその周辺の土地に住む全ての人々の、暗黙のタブー、

「絶対に入ってはいけない場所」

でした。

 

正夫は、幼い頃から何度も両親に聞かされていたそうです。

「あそこは山の神さんがおるでなぁ。迂闊に入ったら喰われてまうど」
と。

しかし、何故かその禁断の場所からさらに奥へ進むと、獲物が面白い様に捕れるのだそうです。

ただ、掟を破り、そこに侵入した猟師などは、昔から行方不明者が後をたたないそうです。

 

しかし、タケルがその茂みに向かって果敢に吠えています。あのイノシシ親子が近くにいることは間違いないのです。

正夫は誘惑に負け、禁断の地へと足を踏み入れてしまいました。

時刻は午後5時を過ぎており、まだ何とか周りは肉眼で見渡せますが、狩りをするにはもう危険な明るさです。

タケルも先程から吠えるのを止めています。

 

「流石にもう諦めるかな」
と正夫が思っていた時、再びタケルが猛然と吠え出し、駆け出します。

正夫もそれを追い、50mほど走った所でタケルが唸り声を上げながら腰を落として、威嚇の体勢をとっていました。

「とうとう見つけたか」
と正夫は思い、前方を見ると、そこは少し開けた広場のようになっていました。

 

そこに黒い影がうずくまって、何かを咀嚼する様な音が聞こえてきました。

凄まじいほどの獣臭が辺りに漂っています。正夫は唾を飲み込み、地面に片膝をついて猟銃を構えました。

 

「イノシシじゃないな」

正夫はそう判断しました。イノシシにしては体が細すぎるし、体毛もそんなには生えていません。

「狼か?」

一瞬そう思いましたが、この山中に狼がいるなんて聞いたことも見た事もありません。

 

良く見ると、「それ」は地面に横たわった、先程のイノシシの子供を食べています。

獲物を横取りされた様に感じた正夫は、「それ」に向かって猟銃の狙いを定め、撃とうとしましたが、引き金にかけた指が動かないのです。

それどころか、体が金縛りにあったかの様に動きません。奥歯だけは恐怖のあまりにガチガチ鳴っています。

 

そして、正夫の気配に気がついたのか、「それ」は食事を止め、ゆっくりと正夫の方に顔を向けました。

どう見ても、それは人間の顔だったそうです。しかも、2~3歳くらいの赤子の。体長は1m50cm程で、豹の様な体、薄い体毛。

分かり易く言うならば、「豹の体に顔だけ人間の赤子」と言った風貌です。

 

「バケモンだ…」

正夫の恐怖は絶頂に達しました。

「それ」はイノシシの血でギトギトになった口を舌で舐め回しながら、正夫に近づいて来ます。

「殺される」

 

正夫がそう思った瞬間、タケルが「それ」に飛びかかりました。

タケルは「それ」の右前足に食らい付き、首を激しく振っています。

「それ」は人間の赤子そっくりの鳴き声をあげ、左足でタケルの鼻先を引っ掻いています。

 

暫く唖然としていた正夫ですが、我に返ると体が自由に動く事に気がつきました。

すぐさま1発撃ちます。不発でした。

「そんな馬鹿な」

正夫は猟銃の手入れを欠かさずやっており、今日も猟に出る前に最終確認をしたばかりです。もう1度引き金を引きました。不発です。

 

正夫が手間取っている内に、「それ」はタケルの首筋に食らい付きました。タケルが悲壮な鳴き声を上げます。

正夫は無我夢中で腰に付けていた大型の山刀を振りかざし、こちらに背を向けている「それ」の背中に斬りつけました。

 

「るーーーーーーあーーーーーー」
と発情期の猫の様な鳴き声で「それ」は鳴きましたが、またタケルの首筋に喰らいついたままです。

正夫はもう一度山刀を振りかぶり、「それ」の尻尾を切断したのです。

 

尻尾を切断された「それ」は、
「あるるるるるるるるるる」と叫び声をあげ、森のさらに奥の茂みの中へと消えていきました。

正夫は暫くの間、呆然と立ち尽くしていましたが、タケルの苦しげな
「ハッハッハッ」
という息づかいを聞いて、我に返りました。

 

タケルの首筋には、人間の歯形そっくりの噛み後がついていました。

出血はしていましたが、傷はそれほど深くなく、正夫は消毒薬と布をタケルの首に当て、応急手当をしてやりました。何とか自力で歩ける様子です。

モタモタしていると、またあのバケモノが襲ってこないとも限りません。正夫はタケルと共に急いで山道を下りました。

 

やがて、正夫の山小屋が見えてきました。

ここからだと、正夫の村まで30分とかかりません。安堵した正夫は、さらに足を早めて村へと急ぎました。

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