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この世界のどこにもいない人の顔を描いてほしいと依頼された元外科医の絵描き

この記事の所要時間: 246

街から離れた山のふもとに、その男の家はあった。

男はそこで絵描きをやっていて、時々訪れる客のために絵を描くのだった。

男は数年前まで外科医だったのだが、ある事情によりその職を辞した。

どうしたものかと途方に暮れていたある日、男は、それまでに得た人体の構造についての知識を、何かに活かせないだろうかと考え始めた。

骨格や筋肉について熟知しているから、少しの練習でそれなりのものが描けるようになった。

といっても、風景画などはからっきしだめなのだが。

 

男は、ノックの音で目を覚ました。

「小鳥のさえずりすら聞こえない時間に誰だろう。まさか客かな」

ドアを開けると、うさぎの毛のように白い肌をした女が立っていた。

女はその扇情的な目を男に向けて、
「こんな時間に申し訳ありません。描いて欲しいものがありますの」

「なんでしょう。あなたのお顔でしょうか。それとも知人のでしょうか」

正直を言えば、男は女の顔を描きたかった。今までに出会った誰よりも美しく、時間を共に過ごしたかったからだ。

女が、写真などの資料を見せようとする素振りはなかった。

願いが届いたのかと男が思ったとき、
「誰のでもないお顔を描いていただきたいの」
と女は言った。

 

「はて、どういうことですかな」

「つまり、この世界のどこを探してもその顔の持ち主はいない……そういう肖像画をお願いしたいの」

「なるほど」

「でも、無茶苦茶な絵は反則ですのよ。単純化されていたり、目や鼻の場所がおかしかったりするのはだめ。まるで、実際にその人の顔を模写したかのようなものを、お願いできますか」

男はしばし黙考し、答えた。

「わかりました。お安い御用です。あなた様はお美しいので、お代は半分で結構です」

「あら嬉しいわ。ではお願いね」

「明日にまたいらっしゃってください。その時にはもう、完成しているでしょうから」

「楽しみですわ」

 

その日になった。

女は昨日と同じ時間にやって来て、肖像画を受け取り、
「ありがとう。よく描いてくれましたわ」
と言って、嬉しそうに帰っていった。

 

それからしばらく経った日、男が新聞を広げると、大きなニュースが目に入った。

数日前に起きた殺人の犯人が捕まったという内容だった。。

その犯人は、数年前に行われた外科手術で死亡したはずの人間だという。

 

 

 

意味がわかると怖い解説

「この世界のどこにもいない人の顔」と言われて、元外科医の絵かきが描いたのは…昔、自分が手術の失敗で死なせてしまった人の顔を描いていたのだ。

「すでに死んでしまってる人だから、この世に存在しない顔だ」と。

この女は「この世に存在しない人の顔」の絵を持って、整形外科に行き、自分の顔を整形した。

実はこの女は、殺人を犯して逃亡している女だった。

なんらかの理由で結局彼女は捕まったのだが、その顔が「この世に存在しない顔」という名の「昔外科手術により死亡した人間の顔」だったために、このような誤報(意図的な煽り)で報道された。

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