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山の峠道にまつわる怪談と無限ループする奇妙な道

この記事の所要時間: 548

大学時代、サークルの友人と二人で深夜のドライブをしていた。

思いつきで隣の市のラーメン屋に遠出して、その帰り道にくねくねと蛇のようにうねる山道を通った。

昼間は何度か通ったことがあったが、夜になるとこれが同じ道かと思うくらい無気味な雰囲気だった。

ハンドルを握っていたのは俺だったが、わりとビビリなほうなので運転を変わってもらったほうが気が楽だった。

しかし、友人のYはラーメン屋で勝手に一杯ひっかけていたので、助手席で無責任な軽口を叩くばかりだった。

そんな時、
「ここの峠って、色々変な話があるよな」
急にYが声をひそめて囁いてきた。

俺は聞いたことがなかったが、
「何なに?どんな話?」
なんて聞くと、ヤツのペースだと思ったので興味ない風を装って
「ああ」
とそっけなく返した。

Yは、なぜか俯いてしばらく黙っていた。

 

二車線だが、対向車は一台も通らない。

申し訳程度の電灯が疎らに立っていた。

無言のまま車を走らせていると、急に大きな人影が前方に見えた気がして一瞬驚いたが、道端に立っている地蔵だと気付いてホッとした。

このあたりになぜか異様に大きな地蔵があるのは覚えていた。

その時、黙っていたYが口をひらいた。

「なあ、怖い話してやろうか」

この野郎、大人しいと思ってたら怪談を考えてたな。

と思ったが、やめろなんていうのはシャクだったので
「おう、いいぞ」
と言った。

 

Yは俯きながらしゃべり始めた。

 

 

「俺の実家の庭にな、小人が埋まってるらしいんだよ。じいさんが言ってたんだけど。俺の家、古いじゃん。いつからあるのかわからないへんな石が庭の隅にあってな。その下に埋まってるんだと。」

 

「で、じいさんが言うにはその小人がウチの家を代々守ってくれている。そのかわりいつも怒っていらっしゃるので、毎日毎日水を遣りその石のまわりをきれいにしていなければならない。」

 

「たしかにじいさんやお祖母ちゃんが毎日その石を拝んでいるけど、そんな話ってあるのかなあ、と思って小学生の頃病院で寝たきりだった曽祖父のところに見舞いに行った時に聞いてみた。」

 

「曽祖父もちゃんと小人が埋まってると教えてくれた。それもワシのじいさんから聞いたと言っていた。子供にとっては気が遠くなるほど昔だったから、こりゃあ本当に違いないと、単純に信じた。」

 

Yは淡々と話しつづけた。

こんな所でする怪談にしては、ずいぶん変な話だった。

Yは言った。

 

「小人って、座敷わらしとかさ、家の守り神のイメージあるよな。でも埋まってるってのが変だよな。俺、曽祖父に聞いてみたんだよ。なんで埋まってるのって」

 

そこまで聞いた時、急に前方に人影が見えて、思わずハンドルを逆に切ろうとした。

ライトに一瞬しか照らされなかったが、人影じゃなかったみたいだった。

地蔵だ。

そう思ったとき、背筋がゾクッとした。

一度通った道?

ありえなかった。

道は一本道だった。

 

「曽祖父はベッドの上で両手を合わせて、目をつぶったまま囁いた。むかし、我が家の当主が福をもたらす童を家に迎え、大層栄えたそうな。しかし酒や女でもてなすも、童は帰ると言う。そこで当主は刀を持ち出し、童の四肢を切り離し。それぞれ家のいずこかへ埋めてしまった」

 

俺は頭がくらくらしていた。

道がわからない。

木が両側から生い茂る景色は変わらないが、まだ峠から抜けないのはおかしいような気がする。

さっきの地蔵はなんだろう。二つあるなんて記憶に無い。

車線がくねくねとライトから避けるように身をよじっている。

Yは時々思い返すように俯きながら喋りつづける。

 

「それ以来、俺の家は商家として栄えつづけたけど、早死にや流行り病で家族が死ぬことも多かったらしい。曽祖父曰く、童は福をもたらすと同時に、我が家をこんこんと祟る神様なんだと。だからお怒りを鎮めるためにあの石は大事にしなければならん、と」

 

よせ。

「おい、よせよ」

帰れなくなるぞ、と言ったつもりだった。

しかし、同じ道をぐるぐる廻っているような気がするのと、Yのする話とどうも噛み合わなかった。

最初に言っていた「この峠の色々変な話」ってなんだろうと、ふと思った。

Yは続けようとした。

 

「これは、ウチに伝わる秘密の話でな、本来門外不出のはずなんだけど…」

「オイ、Y」

我慢できなくなって声を荒げてしまった。

Yは顔を上げない。悪ふざけをしてるようだったが、よく見ると肩が小刻みに震えているようだった。

「この話には変なところがあって、俺それを聞いてみたんだ。そしたら曽祖父がおまじない一つを教えてくれた」

「Y。なんなんだよ。なんでそんな話するんだよ」

「だから…」

「Y!車の外が変なんだよ、気がつかないのか」

俺は必死になっていた。

 

「だから…こういう時にはこう言いなさいって。」

 

「ホーイホーイ

おまえのうではどこじゃいな

おまえのあしはどこじゃいな

はしらささえてどっこいしょ

えんをささえてどっこいしょ

ホーイホーイ」

 

心臓に冷たい水が入った気がした。

全身に鳥肌が立ち、ビリビリくるほどだった。

ホーイホーイという残響が頭に響いた。

ホーイホーイ…呟きながら、俺は無心にハンドルを握っていた。

見えない霧のようなものが頭から去っていくような感じがした。

「頼む」

Yはそう言って両手を合わせたきり黙った。

そして、気がつくと見覚えのある広い道に出ていた。

市内に入り、ファミリーレストランに寄るまで俺たちは無言だった。

 

Yは、あの峠のあたりで助手席のドアの下のすきまから顔が覗いているのが見えたと言う。

軽口が急にとまったあたりなのだろう。

青白い顔がにゅうっと平べったく這い出て来て、ニタニタ笑い…これはやばいと感じたそうだ。

俺に話したというよりも、自分の足元の顔と睨み合いながら、あの話を聞かせていのだ。

彼の家の人間が危機に陥った時のおまじないなのだろう。

 

「家に帰ったら、小人にようくお礼言っとけよ」
と俺は冗談めかして言った。

「しかし、お前がそういうの信じてたなんて以外な感じだな」
と素直な感想を言うと、Yは神妙な顔をして言った。

 

「俺、掘ったんだよ」

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