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カラカラという音を必ず聞け

この記事の所要時間: 48

空はすじ状の雲に真っ赤な夕焼け。

輪郭がやっとつかめるくらいの薄暗い教室で、kは一人で窓の外を眺めていた。

kは僕の一番の親友である。

僕が教室に入るなり、
「明かりはつけなくていいよ」

kは言った。

「え?暗くないの?」

「大丈夫、そのうち目がなれるから。それよりこっちに来てくれないか」

女子の着替えでも見えるのかな?と僕は思った。

なぜなら、我がバトミントン部の夏合宿は毎年男女合同で行い、合宿最終日の今日の練習を終えて、部員たちは帰宅する前のシャワーを浴びているころだったからだ。

暗闇に慣れてきた興味津々の僕の目に映ったのは、とても不安そうな顔をしているKだった。

どうやら女子の着替えが見えるわけではないらしい。

 

それにKの視線は向かいの校舎の窓ではなく、その手前にある中庭だった。

「何を見てる…」

「静かに」

Kは僕の声をさえぎった。

kの指差す先、中庭の(少し荒れた)花壇の地面から20センチほどのところがぼうっと白く見える。

 

(あれは何だ??)

 

夕日は完全には沈んでいない。

でも、その一部分に夕日が差し込んでいるわけではない、その花壇は完全に校舎の影にはいっているのだから。

 

それは間違いなく、人間の足の輪郭だった。

花壇の花の上で、人間の足、正確にはつま先からひざあたりががうすぼんやりと浮かび上がり、そこから先はすぅっと消えている。

向きからすると、まっすぐにこちらを向いているようだ。

と、それは突然消え、その後薄暗い闇の中
「カラカラ」
と何かが転がっていくような音が微かにした。

 

僕は一瞬驚いたが、そのあと、ぞっとするような不安が湧き上がり、声もでなかった。

そして、kの体は小刻みに震えていた。

 

「音、聞いた?」

kが言った。

「ああ、カラカラって…でもあれ、なんだ??」

「そうか。聞いたか…」

なぜかkはほっとしているようだった。

 

「あれな、…おまえのところに行くと思う…」

「え?」

僕はkが何を言っているのか理解できなかった。

 

「ごめん…お前は俺の親友だから…。でも大丈夫、安心しろ。ただし俺の言うことを良く聞くんだぞ。さっきは足だったろ?」

確かに足の輪郭が浮かび上がっていた。正確にはひざまでだが。

「あ、ああ、足だった…」

僕は不安げに答えた。

 

「次は腰までだ」

 

え!?なんだよおい!

次があるのか?

それにターゲットは僕なのか!?

なんで僕なんだ、と問いただそうとしたが、kの真剣な、ただならぬ表情を見てその言葉を飲みこんでしまった。

kは続けた。

 

「腰の次は肩だ。その次はあごまで現れる。いいか、その都度必ずあの「音」を聞くんだ、あの「カラカラ」という音を必ず聞け。
聞くまではその場を離れては絶対にだめだぞ。それから、このことは人には話さないほうがいい。友達を巻き込みたくなかったらな。」

 

「わかったよ。でも、もし音を聞き逃したら?その時はどうなるの?」

「その時は…顔だ…顔まで現れる…そうなれば…」

 

 

 

これはこの夏の出来事です。

その後、kが言ったとおり彼女は現れました(少し小柄な感じのワンピースを着た女の子だと分かりました)。

今日までに肩まで見ています。

 

見た場所は、「腰」の時が体育館の用具入れの倉庫。

「肩」の時が最初の中庭の、ほぼ同じ場所です。

時間はいずれも夕方でまだ日が沈みきっていない、でもかなり薄暗くなっている時でした。

それを見た瞬間は息もつけないくらい怖かったですが、kの忠告どおり「音」を聞くまで立ち去りませんでした。(それをkに言ったら「よし」と誉めてくれましたが)

 

なんとなく分かってきましたが、普段は人がいてにぎやかなんだけど、ふっと人の気配が無くなる、そんなタイミングがあるんです。

そういう時なんです。彼女を見るのは。

なんで「音」を聞くまで立ち去ってはいけないのか、顔が現れ、それを見たらどうなるのかkは教えてくれませんが、「事が終わったら」全部話す、と約束してくれました。

 

どういうことなのかkに聞いたらまたこちらに書こうと思います。でも不思議なのです。

最初はとても恐ろしくておびえていたのですが、最近彼女の顔が気になって眠れないのです。

次にあごまで現れた時、もし「音」を聞かなければ、僕は彼女の顔をみることが出来る。

そう考えると妙に胸が高鳴るのです。

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