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脳腫瘍を患い亡くなった人が前の持ち主だという妙に安いマンションを購入した八百屋の旦那

この記事の所要時間: 911

夏休み、僕は母親に頼まれて知り合いの八百屋でアルバイトをすることになった。

近々、そこの奥さんに子供が生まれるということで手伝いに行けということだったと思う。

 

8月31日、バイトの最終日だったからよく覚えている。

朝10時頃、八百屋の旦那と僕がトラックで巣鴨の青果市場から戻ってくると、お店の前に人だかりができている。

遠目に見ても深刻そうな顔をしている。何よりも妊娠中の奥さんがその中央で泣きじゃくっていた…

 

青くなった旦那さんが
「なんだ、何があったんだ?」
と慌ててトラックを降り奥さんの所に駆け寄った。

僕もすぐ人ごみを別けながら後に続いた。

「いったいどうしたっていうんだ。」
と旦那さんは奥さんの肩に手を置いて優しく語りかけると、

奥さんはウワーと旦那さんに抱きついて
「あのマンション、イヤ、怖い、何かいる!!!」

(そのときの顔は一生忘れられないが…)

全くブラシを入れていないボサボサの髪を振り乱し、周囲が真っ赤になった目を剥いてそれこそ狂ったように喚きはじめたのだった…

 

実は、八百屋さん夫婦はもともと僕の両親が経営するアパートに長らく住んでいた。

この度、子供が生まれるというので、お店の近くにある中古マンションを一月ほど前に購入したのだった。

奥さんはまさに錯乱状態で、旦那さんに抱きついて大声で泣きじゃくっている。

旦那さんはちょっとビックリした顔をしていたが、直に笑って周りを見回した。すいませんっていうような表情をしていた気がする。

しばらくそのままの状態が続いていたが、奥さんの鳴き声が少し落ち着きはじめた頃を見計らって旦那さんは奥さんにたずねた。

「なに言っているんだ。何がいるっていうんだ?」

すると、奥さんは(夫が帰ってきたので少々おちついたか)涙をボロボロこぼしながら少しづつしゃべりはじめた。

「男がいるの…。でも人じゃない。」

「え…」

 

奥さんがいうにはこうだった。

朝4時ごろ旦那さんが市場に行くのを見送ってまた寝たらしいのだが、7時ごろ違和感を感じて布団の中で目をさましたら、中年の男の顔が鼻と鼻をこするような距離で浮いていたそうだ。

アッと思ったら空に溶け込むように消えていったそうだ。

旦那さんは困惑の極みというような表情をして聞いていた。

奥さんは
「あのマンション変よ、なにかあったのよ。」
と旦那さんに泣き叫んでいる。

2人ともこれをどう解決していいか全くわからず、途方にくれていたようだった。

もちろん、僕もこんな事態になんて生まれて初めてのことなんでただただ固まっていた。

するとそれを聞いて、どこかに電話をしていた隣の果物屋のおばあさんが商品のスイカとメロンを手にもってこちらにやってきて2人にしゃべりはじめた。

「今、地元の不動産屋さんに聞いてみたんだけど、そのマンションに前住んでいた人が近くにいるそうだ。そこにこれもっていって供養してもらいなさい。」

そのおばあさんは他にも何か聞いたようだったが、それ以上なにも言わなかった。

旦那さんは
「そうします。」
と言って供物を受け取り、その場はそれでおしまいとなった。

 

その昼、僕はバイト代をもらいにそのマンションにいくことになった。

バイトは午前中だけで、その後は予備校の夏季講習にいくのがその頃の生活だった。

旦那さんも昼は自宅に戻り、食事と仮眠をするのがいつものスケジュールだった。

僕と旦那さんは歩いてそのマンションに向かった。

「おい、ゆうちゃん(僕です)、どう思う?」

旦那さん聞いてきた。

「僕にはよくわからないですが、こんなこともあるんですね。」
と答えると

「あの部屋、異常に安かったんだよなぁ(バブル期です)。まぁ前の主が亡くなったとは聞いてはいたけど…。なにか部屋の壁紙の模様でもそうみえたんじゃないかな?」

そこで僕はちょっと冗談半分に
「写真でも撮ってみたらどうです?それっぽいのとって正体はこれでしたと見せて安心させてあげたらどうでしょう?」
と言ったら

「そうだなぁ~そうするかそれもひとつの方法だよな」
とちょっと考え込みながら言った。

 

5分ほどでマンションに着きその麗の部屋の前でちょっと待つように言われた。

「ちょっと待ってて、部屋まだ片付いてないしさw。バイト代持ってくるよ。」

「わかりました。」

15分ほど待っていると、旦那さんが出てきた、

「別に変なことはないけどな。はいこれ、ご苦労様でした。」
とバイト代の入った封筒を渡された。

それと一緒にフィルムも1本渡された。

「これも現像頼むわ。それっぽいところ撮ってみたよ。俺これから不動産屋に連絡してお供え物もってその前の住人のとこ挨拶してくるよ。」

「わかりました。」

「おう、明日から学校だろ、勉強頑張れよ」

お礼を言って僕は旦那さんと別れた。

実はこれが彼との永遠の別れになるとは露とも思わなかった…

 

 

次の日から学校が始まり、また忙しくなった。

フィルムのことも気にはしていたがあれから八百屋の旦那さんからの連絡もなく、まぁ1週間ぐらいはいいだろうとそのままにしておいた。

ところがすぐに事態は急変した。近所に住む同級生が電話して来たのだ。

彼は、家計を助けるために新聞配達のバイトをここ1年ず~っとやってきた真面目なやつだ。

「この間、お前がいっていたそのマンションどこ?」
とちょっと声が上ずっている。

「あぁ、Tストアの上、N町会のところの。」

「そっか、あそこか…。やっぱりなぁ。こんなことってあるのかなぁ。」

「どういうことよ?」

すると、彼は興奮して話し始めた

「あそこなぁ、俺ともう一人の先輩の担当なんだけど、料金回収のときにさ。俺たちが発見したんだよ。」

僕も薄々は察してはいたが
「何を?」
と聞くと

「死体だよ。そこのご主人の…。自殺した死体。」

「(やっぱり…)それでどうしたんよ?」

「すぐ警察呼んで事情聴衆。まぁ明らかに自殺だったんだけどね。首吊りの。」

「げ、すごいの見たね。」

「あぁ、後で聞いたんだけどそこのご主人は脳に腫瘍ができていたらしく、それが原因で神経が失調していたそうだよ。まぁ狂っていたんだって。奥さんと子供が逃げ出して近くに住んでいるみたいだけどね…」

 

…それを聞いてなにか不味いという気がした僕は、前にもらったフィルムをすぐに現像に出すことにした。

休日の朝のことだったので、夕方には現像が終わるということだった。

写真を受け取りに行くときに僕はちょっと怖くなったので、その友人(他にも4~5人いた)にも一緒に来てもらった。

現像された写真を僕たちはみて驚いた、というか信じられなかった。

写っていた。男の人となにか小さい人影がいっぱい。

男の人は人間のデザインではあったが、底辺と上辺がずれた(平行四辺形)ような感じにずれて写っていた。パジャマのようなものを着ていた。

腕は下にダランとたらして、足はまるで波に流れたような状態で曲がっていた。顔は普通のおじさんだが、目は黒い穴、口はだらしなく垂れ下がり微妙にゆがんでいた。

その足元には…ちょっと信じられないが20センチぐらいの…小さな武士?とういか着物をきた男?たちが手に刀のようなものを持って、その男の周りに12~3人ほど立っている。

「これ本物…?」
と友人たちはちょっと恐怖が見える表情で話している。

「どうしようか…?これ持っていっていいものだろうか?」
とそのとき内心そう思った。

正直、あまりにもあまりな写真なんで、からかっているのか、冗談にもほどがあると思われてしまうのではないかと考えたからだ。

あの奥さんの顔を思い出したら、ちょっとこれは面白半分でも持ってはいけない。

そのときはそう思った。

 

でも…それがあんな町内が大騒ぎになってしまうような幽霊話になってしまうなんて…

そして、人が一人死んでしまうなんて…

思わなかった…

 

後述するようなことが起きたあと、写真は学校の先生に渡した。友人たちと話あって決めたことだった。

今から思えばなんでっと思うのだが、当時こんな異常事態を相談できる身近な大人は先生ぐらいしかいなかった。

持ってちゃまずいような気がしていた。

先生は笑いながら受け取った、一応理由は説明したが、おそらく信用はしていなかったと思う。

写真はそのあとどうなったかは知らない。ネガもない。

 

 

一ヶ月ほどして、いろいろなことがおき始めた。

八百屋の旦那の様子がおかしくなっていったらしい。

なにかブツブツつぶやいているそうで、気味悪がってお客が来なくなってしまいだした。

例の部屋にはその男が相変わらず現れ続けているらしく、台所で奥さんが調理をしていると冷蔵庫と壁の隙間から1mぐらいの妙に歪んだ首をだしてじ~っと彼女をみていたり、また家に帰ると3回に1回は部屋のどこかに立っていてすぅっと掻き消えていくそうだ。

また親戚が泊まりにいたときは、そこの子が夜中泣きながら大人のいる部屋にやってきて
「布団のある部屋で変なおじさんが暴れている」
と言い出す。

そのときやっていた能だか歌舞伎のテレビ放送をみては
「こんな人さっき廊下でいっぱい歩いていたよ。」
と怖がっていたそうだ。

(これらの話は奥さんが店でお客さんにケラケラ笑いながら話していたそうだ。壊れ始めていたのだろうか?)

 

それから3ヶ月、その八百屋は閉店した。旦那さんが死んだからだ。

その幽霊と思われる前の主人と同じく脳腫瘍をわずらい、気がふれ店で暴れ最期にはその部屋で首吊り自殺をしたのだ。

残された奥さんは、子供たちをつれて近所にあった実家に戻っていったそうだ。

町内はその話で持ちきりになった。10年たった今でも時々その話が出たりする。

 

そのマンションはまだあるが、誰も住んでいない。

近所の人がなにか教えてくれたりしてくれたのだろうか?

その後、一度誰か越してきたが、すぐに出て行ったそうだ。

そして、やはりそのときも男の幽霊がでたらしい。

ただ、その男の特徴はどうみても八百屋の旦那だったそうだ。

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