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見たこともない神々しさを放つ花は摘んではいけない

この記事の所要時間: 453

私は高校生の時、友達とキャンプをしに行きました。

友達のうちの一人が、穴場を知っていると言うのです。

さてそこに付いてみると、川の水は美しく、魚が沢山泳ぎ、風通しがよい、申し分のない場所でした。

初めてのキャンプで、こんな良い場所に来れるとは!という事で、すっかり浮かれ気味になった私達は、まるで小学生のようにそこらへんを探検することにしました。

 

しばらく歩いていると、なにやら香しい香りがします。

見ると目の前に、鮮やかなピンク色の花畑が一面に広がっていました。

その美しさ、一種の神々しさに見とれて、しばしの間ぼうっとしていました。

「ねえ、これ摘んでもいいかなあ?」

「3、4本くらいなら…いいんじゃない」

今思うと、見たこともない花を摘むと言うのは、いけない行為なのですが、私達はそれを知っていながら、それを摘んでしまおうという気持ちに負けてしまいました。

美しい花に出会い、それを摘んできたと言う満足感に満たされ、その後のキャンプはとても楽しいものでした。

夕食後はランプに火をともし、雑談会。

最近のテレビの話、いやな先生の話、男の子の話、そしてつきものの怪談…。

私達は夜遅くまで、わいわいとしていました。

 

ところがです。

いつもにぎやかでお笑い担当のMが、いつになく静かなのです。

「M、どうしたの、大丈夫?具合悪いなら、寝なよ」

「うん、大丈夫」

そうは言っているものの、顔は真っ青、身体を縮こまらせ、ガタガタと震えています。全然大丈夫そうではありません。

「だめだよ、今から家に帰る?」

「いいの、いいから」

皆心配して、Mによってきました。しかしなおもMは大丈夫と言い続けます。

 

「うるさあああい、痛いんだよおおお!」

いよいよMが苦しそうだと言うとき、Mはいきなり私達につかみかかってきました。そのときのMの顔は、人のそれではありませんでした。

そんな中、私の耳もとで誰かが何かを呟いています。こんなときに悪ふざけを!

「ちょっと!」

振返ると、そこにあるのは闇ばかり。

Mは白眼を向いて倒れてしまいました。見るとずれた服から見えるMの腹には、青いアザがくっきりとありました。

目を覚ましたMに事情を聞いてみると、
「急に腹が痛くなり、下したかなあ、と思っていたが、どうもそれとは違う。そのうち、腹がさける様にいたくなり、しまいにはそこからちぎられる様な痛みが襲った。その後は分からない」
と言いました。

ただの病気ならいいでしょう、しかし、あの私達を襲ったMの顔…。

「何か」が憑いたのではないか、ということが、言わずとしても私達の中で一致していました。

 

「きゃあ!」

突然、メンバーの一人が悲鳴を上げて耳の後ろを押さえました。

「どうしたの?」

彼女は青い顔をして言いました。

「耳の後ろがむず痒いと思ったら、なにかが喋ってたの」

「…もう、寝ようか」

誰がともなく言ったので、皆それに従いました。

テントの中で私は、気を紛らわそうと持ってきたウォークマンで音楽を聞き始めました。

 

やっと落ち着いてきたときでした。

音とびがし、それに合わせて何かが聞こえます。さっきの、私の耳もとで呟いていた、「何か」の声です。

恐ろしさのあまりがたがたと身が震えます。

「…………イ」

いやだ、いやだ、と意味もなく呟いてみても、同じでした。

声が、段々、ハッキリと聞こえる様になってきます。

「…イ……イ」

耳からヘッドフォンを思いっきり抜き、寝袋にくるまりました。それでも、まだ聞こえてきます。

「イ…イジャ…イ」

涙が溢れ、耳を押さえても聞こえてきます。

そして、とうとう「それ」が何を言っているのかが、分かりました。

はっきりと、聞こえたのです。

 

「痛いじゃない」

 

「きゃあああああ!!」

もう我慢の限界です。私は耳を押さえて叫びました。

「どうしたの!?」

同じテントにいる子が、私に聞きました。

それに答えようとしたとき、急に腹が痛くなりました。それもただの痛さではありません、そこからちぎれてしまいそうな痛みです。

(痛い、痛い、死んでしまう!)

気絶しそうになるその瞬間、あの花の匂いが一瞬、漂いました。

 

目を覚ますと朝でした。友達が、心配そうに私の顔をのぞいています。

聞くと、私以外にも、
「誰かが耳もとで呟いていた」
と言った子、そしてもうひとり、同じ様になった人がいたそうです。

一体、あれは何だったのだろうか?そう思いながら着替えていると、足下に、茶色いかさかさしたものが触れました。

拾ってみると、それは昨日摘んだあの花でした。一晩でこんなになってしまうなんて…?

そのとき、私の腹に、青いアザが一本あるとこに気がつきました。

そしてあることに気がつきました。

この症状が出たのは、この花を摘んだ人だけ、Mもそのひとり。

もしかして私は、摘んではいけないものをつみ、そのバチがあたったのではないのか…?

 

帰る前に、私は一人で、あの花畑へと行きました。相変わらず香しい匂いがします。

ですが、そこに感じられたのは、あのときの神々しさではなく、一種の恨み…そのようなものでした。

今でも、そのアザは消えません。

多分、一生消えることはないでしょう。

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