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小人が操る火の玉が浮かぶという奇妙な噂があり接近禁止命令が出ていた「さくら池」

この記事の所要時間: 259

僕が、小学校の頃のはなし。通学路から少し外れたところにさくら池という、かなり大きい農業用水池があった。

僕たちが住んでいた団地はさくら池の先にあったから、下校途中に大きく迂回する通学路をはずれ、そのさくら池のほとりを通る近道を通って帰るのが常だった。

大人たちに見つかり、学校に通報されると、当然、叱られる。

昼でも暗いような竹やぶを抜け、赤土むき出しの切通しをくぐり、池の土手の未舗装の道を行くそのルートは人通りも無く、いろんな意味でやばい感じがしたけど、またそれが魅力だった。

 

五年生の秋口の頃、そんな僕たちの学校に、奇妙な噂が広まった。
日が暮れてから、その近道をあるいていると、さくら池の真ん中あたりに、火の玉が浮かぶというものだった。
いつの間にか
「その火の玉を見つめてはいけない」
という警告も加わっていた。その警告の出所は、地元の生徒のおじいちゃんやおばあちゃんらしい。親の代に越して来た僕ら団地の住人には、今ひとつピンと来なかったが、地元の生徒は近づかなくなった。
きっと僕らの知らない、古い言い伝えでもあったのかもしれない。

 

僕自身、その火の玉をはっきり見る事はなかった。

確かに、下校が遅くなった時に夕暮れの土手から暗い湖面を見下ろすと、真ん中あたりに薄ぼんやりと白い霧のようなものが見えた気がしたことはあったけど、はっきりとは確認していない。

やっぱり、それを見つめることは怖くてできなかった。

 

 

ある朝、同じクラスで同じ棟の五階にに住むシゲルをさそうと、シゲルのかあさんが彼は具合が悪くて学校を休むからと言った。

放課後、シゲルに宿題のプリントを届けると、共働きだったのでシゲル本人がドアに姿を現した。目が血走っていた。

とても具合が悪そうに見えたので僕はすぐに帰ろうとしたが、シゲルに引き止められた。

彼のベットに並んで腰をおろし、シゲルの話を聞いた。

夕べから、眠っていないこと。

そしてシゲルは、さくら池の火の玉を見つめてしまったらしいこと。

すると、薄ぼんやりした火の玉がはっきりと形をとりはじめ、ドッジボール大の球形の発光体になって甲高い金属音をさせつつ、シゲルに向かって飛んで来たらしい。

足がすくんで逃げられないシゲルの1メートルほど前方に空中静止した火の玉は、白い光を放ちつつ実は透明な物体で、そしてその中に気味悪く痩せた小人がしゃがんでいた。

さらに目の前に近づくと、その小人が立ち上がり、シゲルむかって切れ目だけの口をしきりに動かし、何かを語りかけてきたという。

しかし、周りに響くのは例の聞いた事も無い金属音だけで、そいつの声は聞き取れず。

しばらくして火の玉は池の対岸の方まで飛んで行き、ようやく見えなくなったという。

シゲルは怯えて、最後に
「どこにも行きたくない」
といった。

僕も心底恐ろしくなり、シゲルのかあさんが帰って来たのをいいことに、そそくさとシゲルの家を立ち去った。

 

それから、二週間もしないうちにシゲルの家族がいなくなった。

学校では急な家庭の事情で済まされた。団地では、たぶん夜逃げだということで落ち着いた。

奇妙な事があった。当の夜逃げした夜、シゲルのかあさんが団地のベランダから外に向かって、シゲルの名前を何回も呼ぶ声を聞いた人がたくさんいた事だ。

僕は、それ以来さくら池には近づいていない。

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