クローゼットの扉からあの世の闇に包まれた存在が出現する社員寮

ある会社の社員寮に住んでいた時の話です。
当時、新入社員の俺は、入社と共に埼玉県の某市にある社員寮に入ることにしました。
その寮は、鉄筋コンクリート造りの3階建ての建物で、建物自体古く、築30年は経っているとの事。
寮の中も、なにか陰気くさい感じがしました。
入居当日、一番乗りした俺は、3部屋空いていた中から2階の奥にある、日当たりの良い角部屋に入る事ができました。
その部屋は12畳程あり、なぜかクローゼットが4セットもありました。
1人で住むには広過ぎるくらいで、収納たっぷりと喜んだものです。
入社後、1人で住むには広すぎる室内と、4セットのクローゼットを不思議に思っていた俺は、ある日上司に尋ねました。
すると、昔は4人部屋だったとの事。
あの部屋で「4人はきっついなー」と思いながら納得したのでした。
寮生活にも慣れてきたある日。
いつになく寝苦しい夜に、唐突にそれは起こりました。
なんともいえない、息苦しさと寝苦しさで眠れずに午前3時を過ぎた事を憶えています。
それまでの寝苦しさが可愛く思える程に、一瞬にして部屋の空気が変わりました。
重苦しく、ピンと張り詰めた空気はその部屋だけ別世界のようでした。
それまで聞こえていた周りの音も嘘のように消えました。
途端に恐怖に包まれた俺は、ベッドに横になったままどうする事も出来なくなっていました。
ベッドに横になっていた俺の視線のその先には、壁一面にある、クローゼットの1つの扉に釘付けになっていました。
このまま見ていたらヤバイ、と本能的に思ったその瞬間!
その扉が、「キィーーーー」と言いながら、ゆっくりと開いたのです。
恐怖で身動き1つできない俺の目に映ったのは、その扉の奥で、俺を「ジトーッ」と見つめている1人の「男」でした。
クローゼットの中で、ひざを抱えてうつむき加減に座っているその男は、明らかに俺を「ジーッ」と見ています。
しかし、あまりにも鮮明に見えているその姿とは裏腹に、俺は一瞬にしてこの世のものではないとわかりました。
いかにもサラリーマンに見えるその男は、30代前半でグレーのスーツを着ておりメガネを掛け、非常に痩せています。
男は、何も言わず、ただずっとこちらを見つめているだけです。
その顔に血の気はまったくなく、とても暗い恨めしそうな表情でした。
一番強烈に感じたのは、その男の周りが漆黒の闇に包まれていることです。
この世とあの世があるのなら、その時のクローゼットの中は、間違いなくあの世の闇に包まれていました。
そのまま何分が過ぎたのかは、わかりません。
俺は、ただただ恐怖しながらその闇に包まれた男のいるクローゼットを見る事しかできません。
何も言わず、しかし、何か言いたげなその暗い表情の男は、闇の中に消えて行きました。
俺はそのまま、ボーゼンとしながら朝を迎えたのです。
おばけが出たからと言って、仕事を休む訳にはいきません。
俺は眠い目をこすりながら、職場に向かいました。
その日の昼休みに、昨夜の出来事を上司に話した所、驚きながらも、その「男」の事について細かく聞いてくるではありませんか。
「何歳位だった?」
「顔の特徴は?」
「体形は?」
俺はその質問に答えていきながら、上司はその「男」を知っているのではないか?という疑念を抱きました。
一通り話し終えた所で、俺は聞いてみました。
「心当たりあるんですか?」
上司の答えは「わからない」の一言でした。
しかし、その表情からは、驚愕してると共に、明らかに「心当たりがある」と読み取れました。
と同時にこれ以上「聞くな」とも訴えている表情でした。
俺は、何か触れてはいけない事に触れてしまった感じがして、それ以上、その上司から何も聞くことは出来ませんでした。
それから2年後、社員寮も出て「あの夜」の事も忘れ掛けた頃、ある先輩と一緒に仕事をすることになりました。
その先輩は、俺と同じ社員寮に長年住んでいたこともあり、寮の主と言われてた人です。
おまけに、社内の事情通で何でも知っていると評判の人でした。
半年ほど寮生活が重なっていたのですが、ほとんど話したことはありませんでしたが、一緒に仕事をするうちに親しくなり、思い切って、「あの夜」の事を話してみたのです。
その時の反応は、以前上司に話した時と同じものでしたが、1つだけ違う所がありました。
一通り話した所で一言、
「明日、写真持って来るから見てみろ」
との事。
それ以上は何も言いませんでした。
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